生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回は自作キーボードのお話です。
自作キーボードと呼ばれている世界
自作キーボードについての投稿が3年前だったりするので、多少重複することもありますが、あまり詳しくない人向けに書きますね。
ここ5年くらいでしょうか。自作キーボードという単語をキーボード界隈で見るようになりました。半田付けをして組み立てるキーボードのキットや、自分で設計したキーボードなどを指す言葉です
キーボードの1つ1つのキーがスイッチ部品でできており、大手メーカーであるCherryMX社の特許が切れたことで、いろんなメーカーがキースイッチを開発&製造するようになったのが流行のきっかけです。
初期の頃はチープな作りのキットが一部見受けられましたが、今では既製品をも凌ぐクォリティのものまで登場してきていて、奥が深い趣味の世界となっています。
僕が自作キーボードに出会ったのは2019年のこと。本当はもう少し前から基板に半田付けしてキーボードを作る文化は知っていたものの、実際に物を見たのはHHKBミートアップでした。決して大きな声では言えませんが、HHKBのHYBRIDが発表されたタイミングで見た自作キーボードの世界は、それに匹敵するほどの可能性が自作キーボードにはあるんじゃないかと思うほどでした。
さて、いわゆる一般的なキーボードというのは、横方向に揃っています。これをロウスタッガードと言います。タイプライター時代にはそれぞれのキーから上方向に線が伸びていたので、その線が重ならないように、横方向に少しずつずらして配線したわけですね。それが今の配列にも名残として残っています。
しかし今の時代はタイプライターとは違い、キーの1つ1つが自由に配置できます。なのでもうこれまでの配列に縛られず、自由な形のキーボードが登場しても良いわけです。
ところが日本語配列のキーボードはJISによって規格化されているため、日本で売られているキーボードの多くはJIS配列に準拠した形で製造されます。これは今のMacBookでも同じことです。英語配列はというと、どこかで規格として定まったわけではなく、長い歴史を辿りながら今の配列に落ち着いています。
ではこちらはどうでしょう。この縦方向に揃っているのをカラムスタッガードと言います。横ではなくて縦に揃っています。この配列の良いところは、指の長さに沿って自然な形で手を置けるところです。
指を曲げる方向もまっすぐなので、より自然な形で操作することができるわけです。これだけ理に適っていそうな配列は、先ほど述べた通りタイプライター時代には構造的な理由から実現が不可能でした。
この物理的に無理という発想がそのまま定着してしまって、200年近くの間大きな変化が起こらなかったのです。
それが今、主に個人の方がキーボードの基板を設計し、アクリル加工したプレートで挟む構造にしてキットとして販売するようになりました。
様々な方が「キーボードがこうだったら良いのにな」という想いを胸に作った、「ぼくが かんがえた さいきょうのキーボード」。それが自作キーボードです。
あ、ちなみにね、魚住自身ももちろん設計したことがありますよ。許される立場になったら、これのキット化や量産、販売までやってみたいですねぇ。
僕はジサクキーボードチョットデキルTシャツが着たかった - by 魚住惇 - こだわりらいふ Newsletter
ここまで来ると、こういうご意見が出ることも考えられます。「あれ?お前さんはHHKBのインフルエンサーだったよね?何浮気してるの?」
おっしゃる通りです。確かに僕自身はHHKBの英語配列を愛し、一生の相棒として生涯を捧げるつもりでこれまで暮らしてきました。これについては今回の配信内容がどんな内容であっても変わりはありません。
とはいえ、いくらHHKBエバンジェリストだからといって、HHKBだけを使い続けて絶賛し続けるのもまた違うと思ったのですよ。
頭文字Dに出てくる主人公、藤原拓海はAE86という車を手足のように動かせますが、その腕をさらに磨くために、インプレッサという別の車にも乗ることで新たな視点を得て、結果として更に操縦技術を向上させました。
キーボードも同じだと思うのです。別のキーボードを満足に使えてこそ、HHKBへの愛に、これまでなかった新しい感情が加わるのではないか。そこに期待したいと思うようになりました。
大体半分くらいまで読み進めていただき、ありがとうございます。やっと「まえがき」が終わるところです。
これだけ自作キーボードのことを語っておきながら、僕は一定の距離感を保ってきました。それが、自分自身で勝手に線引きしていた部分を取っ払って、新たな分野にチャレンジしたいと思うようになりました。
今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
自作キーボードとの一定の距離感
僕がこれまで自作キーボードを組み立てたのは全部で5台ほど。もうこの台数だけで「たくさん作っている」の部類に入るんじゃないかと思われそうです。
しかし自分としては、これはかなりHHKB寄りな視点からのキーボードとの付き合い方で、自作キーボード界隈に対して高みの見物をかましていました。
自分は教師としてタイピングの指導もするし、競技タイピングにも参加する。HHKBやREAL FORCEも大好きだ。だからロウスタッガードしか使わない。
そう、様々な自作キーボードがカラムスタッガードを採用していながらも、僕はそれらを興味の対象から外してしまっていたのです。
人間関係に例えると、目玉焼きにケチャップをつける派の人を恋愛対象として見なかったようなものです。その人がどれだけ魅力的であろうと、その1点が理由で対象から外すような感じです。いや、これは例え話の例ですよ。
存在としては認めるんだけど、自分は決してやらないよと決め込んでいたということです。
決して好き嫌いで選ばないという選択をしているわけではありません。学校現場では自分のデスクにあるPC以外にも、コンピュータ室の教員機を操作することもあります。それに、タイピングのコンクールでは利用するキーボードが限定されていたりもします。
おすすめキーボード | 一般社団法人 日本パソコン能力検定委員会
こうした事情から、生徒への指導などの事情も含めてHHKBやリアフォが最高峰だったわけです。
もし自分がカラムスタッガードに慣れてしまって、これまでと同じスコアが出せなくなったら。それは指導力が低下したと言えるのではないか。
今思えば、自作キーボードへのチャレンジに、自分でもっともらしい理由を並べて、自分自身をも説得して納得させていたんじゃないかと思います。
しかし、そうも言っていられなくなりました。この動画の登場です。
【総集編】キーボード探しの末路。(ヒント : Keyball) - YouTube
あ、この人は仲間だ。見れば見るほどそう思いました。そして、HHKBからカラムスタッガードに乗り換えながらも、感覚はすぐに戻せると動画内で話していました。
そうか、カラムスタッガードに慣れ切ったとしても、いつでも修正が聞くし、戻れるのか。Podcast&コーヒー仲間のごりゅごさんも似たようなことを言っていたな。
なんか自作キーボードを嗜んでいる人って、自分が考えた最高のキーボードに辿り着こうと旅に出るもんだから、やれHHKBは入門編だの、もう普通のキーボードになんか戻れないだの言ってくるイメージがあったんですよ。
僕にはそれが勝手にハードルを高く認識してしまう原因となっていました。そんなにハードルが高いのなら、もうHHKBでいいわ。
でももしかしたら、修行を重ねることでそんな疑念をも乗り越えることができて、新たなステップに上がれるとしたら。
というか、目の前にやるべきことがあったら、うだうだ言い訳つけて二の足を踏むなんて格好悪いんですよ。実際に修行してみて、ダメならダメでいいじゃないか。修行せずに何を一丁前に語っているんだ。
そう脳内の自分が奮い立たせてくることもあって、もう1回チャレンジしようって思えるようになりました。
これが沼の始まりです。
修行の経過
僕が自分自身の殻を破り、カメラの次に散財した結果。こんなに綺麗なキーボードをお迎えすることになりました。
Keyball39という自作キーボードです。見事なカラムスタッガードで、しかもトラックボール付き。最小限のキーで構成されたコンパクトなモデル。
こんなんで満足にキーボード操作ができるのか。そんなツッコミをも反射的にさせてくれる形をしています。
これを書いている現在は、修行も1週間ほど経って、日本語入力なら難なくできるようになってきました。まだ一部の記号や数字などのキーの配置に自分が納得いっていなくて、試行錯誤の余地がありますけどね。
それでもこの配列で、寿司打でここまで取れるようになりました。HHKBでは12000円分お得になれたりしますが、まだその領域には到達できていません。
まぁ自作キーボードからのタイピングなので、もうこれで良いんじゃないかという気もしています。速度を求めるキーボードじゃありませんから。
ミスが目立っているのは、ハイフンをLの右側に設置したもののまだその場所にハイフンがあることが脳に定着できていないからです。ついついPの右上まで指を伸ばそうとしてしまいます。
学校でもお昼休憩や帰宅前には必ず寿司打をやるようにしています。一見遊んでいるように見えるかもしれませんが、修行です。そして、授業でもタイピングを生徒にやらせているので、これは教材研究の一環です。
そして、自分の中の100%の速度は出せないものの、こうした文章を入力する程度の思考のアウトプットにはあまり困らない程度にタイピングできるようになってきました。これなら常用しても問題なさそうです。
あとはもっと細かい部分。記号の位置や数字の位置。特に数字は自作キーボード界隈ではよくテンキーをどこかのレイヤーに割り当てたりするらしいんですが、僕は普段からテンキーを使わずに入力しているので、テンキーレイヤーを作ると逆に入力しづらいなと思っています。
どのキーにどの機能を割り当てるのかも、試行錯誤していて面白い。それが自作キーボードの醍醐味の1つです。
ちなみにこのKeyball39のために、買い揃えた部品や三脚などの数々を合計すると、既に5万円を超えています。カメラの勢いが無ければこのキーボードに対してこれだけ満足のいく出費はできなかったでしょう。
あぁ、まだiPad Proの買い替えもあるのに。本当に恐ろしいです。
それでも、分割キーボードに再び熱中させてくれた。カラムスタッガードの修行をやろうと僕に決意させてくれたこのキーボードに、感謝しています。
ちなみに開発者であるヨーキースさん、昨年まで岐阜県高山市にリアル店舗を構えていたそうですが、少し前に店をたたんだそうです。
僕の自宅から高山まで車で片道2時間ほどの距離だったので、行けばよかったなぁと後悔しています。今はその方は大きなドローンで人を乗せられるモデルを開発しているんだとか。そりゃリアル店舗をやっていく余裕もなさそうですよね。
GW、僕はというと、時間さえあればキーボードのファームウェアをいじったり、改良を加えています。自分が使うキーボードの中で動いているプログラムに手を加えることができるって、本当に素敵です。言語は大学時代に覚えたC言語なので、ググりながらならなんとか読めます。愛用しているキーボードのソフトウェアを自分で改良していくのも、また新たな沼です。
改良がひと段落したら、GitHubで公開する予定です。また、改良する過程で他の人がどう使っているのかも学んでいけるのも楽しみの一つ。
最近、カメラも買ったし自作キーボードも増えたしで、毎日いじるものがあって楽しい。それに、来週にはiPadの発表があるだろうし。毎日が楽しいですよ。
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