生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
勤務校では学年末考査(3学期に行われる、その年度の最後のテスト)が行われました。
情報Ⅰの学年末考査での出来具合がそれはもう酷かったので、今回はその反省をこの場でやろうと思います。
プログラミングの授業の反省
学年末考査の平均点は、40点を切っていました。普通に考えて定期考査は平均点が60点になるように作問することが理想とされています。
それが、40点を下回ってしまった。ここに何も問題がないといえば嘘になります。単純に考えて、学力に見合った問題を出題していないことになります。
そう、今回のお話で想定しているのは、先週まで登場していたプログラミングに目覚めたトップ層の生徒ではなく、下位層に当たる生徒の話です。
僕は自分の学生時代や、教師人生が始まってからも、例えば5段階評定で1や2ばかりがつけられてしまうような人を何人も見てきました。
自分が学生時代だった頃は、そもそも学校に来ない、いわゆる「不良」と見られていた生徒が多かったように思います。大きな車に乗っていてドゥンドゥンドゥンと爆音を響かせながら夜中のドン・キホーテの駐車場にいるような人たちです。
ところが今はそういった人種に分類するような生徒は減っていて、本当にお勉強ができないだけの生徒が増えているのを肌で感じています。
僕が住んでいる場所が田舎だからか、半グレやヤンキーみたいな文化とは程遠く、そういう意味では割と平和です。
教員採用試験合格前の講師時代が、まだちょっとそうした人たちの残党が残っていたかな?くらいで、それ以降はヤンキーに分類される人たちを仕事上相手をすることがありませんでした。
新規採用として赴任した学校は、それこそ定員割れを毎年起こしていて、当時の校長先生は入試の度に「いつか選抜をしたいね」とおっしゃっていたほどでした。
しかし不思議と、その生徒たちは素直で、話せばわかる子たちでした。
今の勤務校と違うのは、卒業後の進路に就職を選ぶ生徒が大半で、全てのクラスで入試対策を行わなくても良いということでした。
僕はその頃、就職クラスも進学クラスもどっちの授業も担当したことがあります。その学校での情報の授業は、「情報の科学」を選択していましたが、情報の授業を2年生で履修させていていたので、クラスも進学と就職とで分かれていました。成績も進学と就職のクラスで別々に算出して良かったので、授業で扱う単元や内容に差をつけることができました。
そう、進学する生徒には高いレベルで、就職する生徒には別の方針での授業を実施することが、その学校ではできていました。これは差別ではなくて、能力や目的に応じた区別だと思っています。
今の勤務校での現実を直視していると、そんな前任校のことを思い出して、懐かしく思えてきました。あの頃は進学クラスで実践したことを、どうやって就職クラスに落とし込もうかをよく考えていました。
転勤してから5年が経とうとしていますが、あの頃にがむしゃらに頑張っていたことが、今のベースになっていたりもします。
ちょっとだけ振り返り
しかし、現任校では、情報の授業は1年生で履修させています。系列や進路先でのクラス分けは2年生からなので、クラスの中に進学希望者も就職希望者も混在している状態です。
中学校と比べて、同じくらいのレベルの生徒が受験してきているはずなのに、以前お話ししたダイヤモンドの原石のような生徒もいれば、高校生活を続けることも難しいような生徒もいます。
これが2年生に進級すると、進路選択の方向性によって新しいクラスに編成されます。そうなれば、進学を目指す生徒と就職を目指す生徒とで履修する授業が違ってくるので、それぞれのニーズに合った授業を行うことができるわけです。
で、僕が担当している科目、「情報Ⅰ」は国公立大学を受験する際の大学入学共通テストの科目に入ったので、今年の1年生から受験指導を行う必要がありました。
今の1年生が3年生になった時に、どれほど受験対策ができるかわからないので、それなら今のうちにやれるだけやっておこうと考えたのです。
科目名が情報Ⅰになる前から僕は、勤務校での受験対策を考えてきました。赴任した当時は「社会と情報」だったので翌年からの科目名を「情報の科学」に変更してプログラミングの授業を取り入れたりと、情報Ⅰへの変革を段階的にできるように準備してきたつもりです。
ところがそれと並行して勤務校の定員割れが続き、国公立大学への進学者数も年々減り続けています。
これはもう、ここの子たちは大学進学を諦めてもらった方が、情報Ⅰの授業も楽しいものになるんじゃないかと、何度も考えました。その一方で、「情報なんて楽勝だ」と思われるのも嫌だなとも思っていました。
初めて講師として赴任した高校では、「ここの子たちが就職した時にWordやExcelが使えるようにしてやってくれ」と言われ、情報っていう科目はそういう役割だったっけなぁと思っていました。
次の非常勤講師として働いた進学校では「この子たちにとって、情報だとコンピュータも使えるし、息抜きなんだよ」と言われてカチンときました。
そして前任校では偏差値が低い学校であるにもかかわらず、情報の科学を教えるという、見る人から見れば狂気の沙汰という環境で、情報の科学的な見方考え方を養わせる楽しさを味わいました。
自分の中では割と志高くやれてきたなっていう感覚がある中で、いざPythonを学年末考査に出題してみると、平均点は40点を下回りました。
この現状はどうしたものか・・・。
hogehoge君の取り組み
では、成績が下位だった生徒が、情報Ⅰの授業ではどんな様子だったのか。実際に遭遇した事案などを1人の人物としてまとめてみました。プログラミングなどを苦手とする、実在しない架空の人物の物語としてお楽しみください。
ここでは彼の名前を、仮にhogehoge君とします。
hogehoge君は、授業の最初に必ず行なっている5分間のタイピング練習を、真面目に取り組みません。頬杖をつきながら、右手の人差し指だけでタイプします。見回っている教員の気配を背後に感じると、ようやく左手を動かします。
2学期に入り、bitやバイトなどの容量の計算、2進数・10進数・16進数の相互変換の単元を進めていくうちに、授業についていけなくなりました。
著作権の授業などは、話を聞いているだけでついていけましたが、2進数を数える時点で挫折していました。
0000 0001 0010 0011 0100
の順番に、数を数えることができません。 その前段階で説明した10進数の桁の考え方、1000・100・10・1という桁が、10の3乗、10の2乗、10の1乗だということも理解してくれませんでした。
hogehoge君に2進数を教えたとき、「2進数の桁は128・64・32・16・8・4・2・1という数でできていて、これがSDカードやiPhoneの容量にも関係しているんだよ」と伝えても、納得した表情が見られませんでした。彼はそもそも、スマホの容量の数字を覚えていなかったので、授業で見たものと身の回りのものを結びつけたりしませんでした。
この辺りで魚住が話していることが宇宙語のように聞こえてくるようになり、hogehoge君はタイピングの時間以外の解説の時間は机に伏せるようになりました。
ロイロノートで配布した課題のカードに取り組む時間になるとむくりと起きてくれますが、説明を聞いてなかったのでどうやってその設問に回答すればいいかわかりません。
点数はなんとしてでも欲しかったのか、共有された回答がある場合のみ、みんなと同じ回答を送ることを心がけていたようでした。当然、回答の内容の意味は全く理解していません。
やがてネットワークの単元に入りました。IPv4アドレスを2進数に変換することも、hogehoge君はできませんでした。2進数と10進数の変換くらいなら一度はできたかもしれませんが、9月の授業でやっていた内容を12月に覚えているはずがありませんでした。
そして2学期の期末考査の点数は最大で4ビットでした。もちろん100点満点のテストです。hogehoge君は問題用紙に書いてある問題文の日本語が読めたとしても、内容が理解できませんでした。マーク方式のテストでしたが、わからない部分は空欄にしました。
当然、赤点でした。そして追考査も不合格。
3学期を迎えて、プログラミングが始まりました。最初に書いたコードはこれ。
a = 3
b = 5
c = a + b
print(c)
hogehoge君は、このアルファベットと記号の組み合わせを正しく入力することができませんでした。カッコを「(」の部分を「{」と間違えて入力することも多く、見本となるコードを正しく入力することにも時間がかかりました。
「数学のイコールと違って、プログラミングでは、イコールの右側を左側に入れるっていう意味ですよ。」と、敢えて「代入」という単語を使わずに説明しましたが、この表現でも彼には届きませんでした。
最初の課題は、プログラムの例を改良しながら、引き算と掛け算の結果を表示するプログラムという内容でしたが、hogehoge君は課題の意味がわからず、さっき入力した作成例のコードをそのまま提出しました。
授業はその後、ifやforなどの基本的な部分を進めていき、テストにはforを使った問題を文章題で出題しました。
ちなみに今回出題した考査の問題はこちらにアップしてあります。
GitHub - jun3010me/joho1-test: 情報Ⅰで出題した考査問題
確かに例年と比べるとプログラミングの演習に使える時間は限られていました。それでも、平均点の低さには驚き、個人的にはショックでした。
ここだけの話ですが、hogehoge君は追認考査の対象にはならなさそうです。平均点が低すぎて、彼の学力でも通ってしまいそう。
hogehoge君に残ったもの
結局、情報Ⅰの授業を通して、そんなhogehoge君には何が残ったのでしょうか。
魚住先生の授業は何を言っているのかわからない
内容を理解できなくても、2年生に進級できる
課題は誰かのを写せば点数がもらえる
ちょろい
ネガティブな印象だけを書き出してみました。hogehoge君が実際にこう思っていないかもしれませんが、こういう印象で終わった生徒はいるだろうなと、自分への戒めも込めて書き出してみました。
ダイヤの原石を探し続けたあまり、どこにでもありそうな石を磨こうとしなかったツケだと思います。
既に学年末考査も終わってしまっているので、テストのために勉強するんだぞという言葉も使えなくなりました。
如何に楽をするかと考えている生徒にとって、終業式までの授業は消化試合です。
hogehoge君に、何かかけられる言葉はあるんだろうか。情報を学ぶことの楽しさで、まだ伝えられることはあるだろうか。
最近ずっと、そんなことを考えながら過ごしています。
今後の方針について
今年度が終わるまで、あと僅かです。今年度発生してしまったhogehoge君に対してかける言葉を思いつき、何か手立てを考えることも、もちろんできなくはありません。
しかしそれと同時に、未来にhogehoge君のような存在を増やさないために、今から何か行動できないかと考えることも必要です。
そこで他の先生方に相談したところ、「中間考査を実施してはどうか」という案が出てきました。
テストの平均点が低いことが、テストに出題している問題の難易度が高いことが原因であるなら、難易度が低く優しい問題を出題することで平均点は上がるのではないか。
しかしそのまま問題数を増やしてしまえば、試験時間内に全ての問題を解答することができなくなります。
それなら、期末考査だけを実施するのではなくて、学期に2回テストを実施してはどうかという話でした。
学期に1回しか考査がないと、当然出題範囲が広くなります。勉強する範囲が広いと、生徒にとってかなりの負担です。
これが中間考査にも情報Ⅰを出題するようになれば、単純に考えて範囲を半分にすることができて、基本的な問題も出題できるし、応用問題も入れることができて、テストの点数にばらつきが出てくるのではないかというアドバイスでした。
諦めずに情報の勉強をしてくれた生徒が、ちゃんと高得点が取れる。そして、情報が苦手な生徒も、ある程度の点数は取れる。現状の"広く深い"考査から"狭く深い"考査x2にすればまだ生徒も勉強を頑張ろうとするのではないかと思うのです。
ただし、中間考査をやるということは、1学期に2回、2学期に2回、3学期に1回分のテスト問題を作ることになり、期末考査だけの頃と比べて2つ多めに作る必要が出てきます。
ハッキリ言って、負担です。知り合いの情報の教員で、中間考査を実施している方は、少なくとも地元では見たことがありません。
単位数的に、情報の教員は各学校に1人いるかいないかの世界なので、そこで更に中間考査を実施しているとなると、本当に見たことがありません。
でも同じ学校でも国語は中間考査を実施しているとも聞いていますし、他教科も含めると、2単位で中間考査を実施している先生は意外と多いと思います。
そう考えると、自分はこれまで楽をしてきたんじゃないかとも思えてきます。そもそも学校に1人しかないので、そういう種類の苦労は嫌というほどしてるんですけどね。
というわけで、今後の方針として、中間考査を実施しようと考えています。この方針によって、平均点が上がるかどうかはやってみないとわかりません。ただし、今年度と同じように授業をやっただけでは、同じことを繰り返してしまうような予感がしました。
現状の方針に問題があるのなら、方針を変更してみて試行錯誤してみる。もしそれで更に事態が悪化したのなら、その時にまた以前の方針に戻す。ただそれだけのことです。木が早いかもしれませんが、来年度がちょっとだけ楽しみになりました。
早いとこ、4月にならないかしら。
今回のnewsletterは以上となります。 似たような状況で指導に苦労している方、特に、情報科目で中間考査を実施している学校がありましたら、是非「#こだわりらいふ」をつけたツイートや、Substack内のコメントまでお願いします。
工業高校(愛知県では工科高校)だと、情報系の授業も中間考査を実施するのがほとんどだと思います。まあ、「情報I・II」ではなく、「工業情報数理(旧課程では情報技術基礎)」や「プログラミング技術」といった、専門科目になりますが。
> ハッキリ言って、負担です。
ですよね
> 未来にhogehoge君のような存在を増やさないために、
> 今から何か行動できないかと考えることも必要です。
教育に直接携わっていませんが、似たような悩みを過去何度も経験してきました。
この種の悩みは正解なんてないので、どこかで線を切る(腹をくくる、割り切る)。
でも、どこで線を切るか?が本当に悩ましい。
適切なアドバイスなんて思い浮かびませんが、とにかく応援しています!