生きることにこだわりを。魚住惇です。
大学を卒業して教職の道に進み、16年間授業をしてきました。16年前から教科「情報」を教える場所は変わらず、コンピュータ室と呼ばれるパソコンが置いてある部屋でした。大学にもコンピュータ室があるわけですが、あそこまでいかないにしても、1人1台の端末があり、教員機が用意されて、設置されているプロジェクターでスライドを投影して授業を行うスタイルが一般的でした。少なくとも僕が勤務してきた学校では。
教員歴17年目にして、今、とんでもない環境に身を置くことになりました。今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
教科「情報」はコンピュータ室と共にあった
「情報」という教科は、2003年度から新設された新しい教科です。僕の年齢で言うと、自分が高校2年生のときに1年生として入学してきた後輩たちから教科「情報」の学習がはじまりました。この世代は「ゆとり世代」とも呼ばれた世代です。多分そっちの呼ばれ方の方が「ああ、あの世代か」と認識しやすいんじゃないかと思います。僕はギリギリゆとり世代ではありませんでした。
今でこそ、「情報の時間はアビバじゃねーんだ」と大声を出して言えますが、当時はとにかくコンピュータの時間であり、主要教科とは違った息抜きの時間だという認識をよくされていた時代でした。
それが、まさか。僕が使っても良いコンピュータ室が、新しい赴任先には存在しないなんてね。
そう。あまり大きな声では言えませんが、現在僕は、多目的教室や化学室、物理室といった空き教室で授業をさせてもらっています。生徒の目の前には、コンピュータはありません。これまでの学校では、コンピュータ室で授業を行うのが当たり前だったので、全然慣れません。この時期はまだ新入生にはタブレット端末を配布できていないので、教科書と問題集しか子どもたちは使えません。
それにね、今でこそ用意してもらえましたが、最初は化学室に暗幕すらありませんでした。大型テレビモニターに表示された内容は生徒には一切見えずに、窓の外の景色が綺麗に映り込んでいました。
魚住「みんな画面に何が見える?」 生徒「外の景色が綺麗です」
まるでコントみたいな会話が実際にあったわけです。そもそもコンピュータ室さえ使わせてもらえない上に、こんな授業にならない部屋を使えと言われても。もうどうやって授業をしたらいいのか、分からなくなりそうでした。
今は結局、紙の教科書とノートでできることを進めています。例えばマインドマップを生徒に書かせたりとかです。付箋なんて高価なものは用意できないので、1人1枚紙があればできるマインドマップです。生徒に端末が渡りさえすれば、デジタル上では付箋なんて無限に出てくるので、いよいよKJ法ができるんですけどね。
そんな感じで、1クラスあたり週に3時間ある情報の時間を、どうやって使おうか考えながら、それでもアナログ環境で何をしたら生徒の興味関心を引くことができるのか。そんなことばかりを考えながら過ごした1週間でした。これを書いているのは19日土曜日。もう今、ホッとしています。少なくともまだ月曜日まで時間がある。まさか自分がこんな思考で生きるなんて思いもしませんでした。
DXハイスクール、採択を受ける
DXハイスクールの今年度の採択校が4月15日に発表されました。
令和7年度 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール):文部科学省
小牧工科高校は重点類型プロフェッショナル型という、通常の採択校よりも予算が多くもらえる分野での採択となりました。僕が昨年度に申請したわけではありませんが、まさかこのプランで通るとは思いませんでした。
通常の採択校だと、新規で1000万円。2年目だと500万円です。それがプロフェッショナル型だと700万円の予算がつきます。この予算を使い切る必要があるというので、もう毎日大忙しです。
何に忙しいかって、業者との打ち合わせです。
先週だけで、もうWeb会議が2件、リアル訪問も1件ありました。教育サービスのプランなどの説明や、教材などのお話をたくさん聞きました。もう、お腹いっぱいです。
特にDXハイスクール採択校向けのプランというのが数多く用意されており、それらに予算を使うことで、子どもたちに普段受けることのできない授業に参加できるというものです。
特に、”総合的な学習の時間”という授業向けのプランが多く、10人程の生徒で1つのグループを作り、探求学習を進めていくという内容が充実している印象を受けました。中には前任の方とある程度話がまとまっていたプランの提示もありました。
さてこれが、文科省のサイトに公開されている、DXハイスクールの概要です。
令和7年度 高等学校DX加速化推進事業(DXハイスクール):文部科学省
このスライドにある通り、
大学教育段階で、デジタル・理数分野への学部転換の取組が進む中、その政策効果を最大限発揮するためにも、高校段階におけるデジタル等成長分野を支える人材育成の抜本的強化が必要
というのが現状の課題でして。大学で受けるデジタル・理数分野の教育に向けて、デジタル等成長分野を支える人材育成を高校の間からやろうという解決方法にお金をかけるという事業です。
そして、そのお金の使い道というのが、
情報、数学等の教育を重視するカリキュラムを実施するとともに、専門的な外部人材の活用や大学等との連携などを通じてICTを活用した探究的・文理横断的・実践的な学びを強化する学校などに対して、そのために必要な環境整備の経費を支援する
ということなので、業者は外部人材の派遣業をかなり推してくるわけです。わが社ならこういう特別授業ができますよっていう感じに。
あくまで自分の場合ですが、あまり響かなかったんですよね。ご提示いただいたプランが。
メタバース、3Dプリンター、プロジェクションマッピングなど、確かにそれらを体験できるようなプロダクトは多くありました。というかもうほとんどがこれ。
でも、出前授業をお願いするにしても機材の数には限りがあるので、せいぜい一度にその授業が受けられるのは10〜20人。せっかくの予算を使うというのに、その授業を受けられるのはほんの一握りの生徒のみです。
DXハイスクールの事業のそもそもの目的を思えば、学校全体に還元するべきではないかと僕は思うんですよ。それに、どれだけ良い体験をさせたとしても、それらを継続的に行わなければ、その時の生徒が美味しいものを食べることができたで終わってしまいます。
学校全体を変革するためにDXハイスクールの予算を使いたい。新しい教育を今後も継続していけるような設備に投資したい。これが僕の思いです。
ちょっとこの辺りで、校内政治でうまく立ち回る必要性が出てきました。政治は僕の専門分野ではないんですがね。なんかちょっと不毛地帯に似たものを感じています。壱岐のように仕事ができれば良いんですがね。
リセマラする子どもたちを目の当たりにした
この時期、僕の授業を受ける生徒らが、タイピングを練習し始める時期です。僕はHHKBエバンジェリスト以前に、タイピングにはこだわりがあります。こだわるっていうほどでもありませんが、高校生の頃から、タッチタイピング前提で生きています。ホームポジションとして決まっている指の通りにタイプできて、そこそこの速度で入力できます。寿司打でいうと、1万円コースで14000円ほどお得と出て、60皿くらいいけます。
そしていつからか、タイピングしている人の運指を見て、ホームポジション通りではないと気付いてしまうという特殊能力だって芽生えました。人の表情や口調などから想いを読み取るのが人一倍苦手だっていうのに、指はわかるんです何故か。
将来の夢は、HHKBが40台あるコンピュータ室を作ることです。生成AIだって、プロンプトを入力しないと使えませんから。ということはつまり、タイピングの能力がある程度必要だっていうことです。
あーあ、アクティブラーニングルームみたいに、グループごとに座る部屋があって、そこにはマウスとHHKBがあって、電源がつながったUSB-Cハブに挿してある。生徒たちはタブレット端末のUSB-C端子にそのハブをさして授業を受ける。あー、そんな環境で授業をやってみたい。
キーボードってね、もう誰もこだわらないんですよ。特に教育現場では。打てりゃいいじゃんって、みんな思ってます。なんでデフォルトのキーボードを何も疑問に思わずに使い続けるんでしょう。
違う。そういう話がしたいんじゃありません。タイピングの授業でびっくりした話をしたいんです。
Windows用タイピングゲームで、打打打2というのがあります。多分過去のどこかの配信で、紹介しました。
Windows版しかありませんが、環境がある方はぜひやってみて欲しいと思います。僕が知る限りで、指ごとの入力の練習ができるのは、これだけです。あとのタイピング練習系サービスは、ただひたすら単語を入力するか、アルファベットの入力などしか見たことがありません。どの指でどのキーを押すのかまでは、誰も面倒を見てくれません。
でね、今年もやってみたら、まぁ生徒の反応が昨年度と全然違っていました。
まず、タイピングの練習なのでミスをするのは日常茶飯事です。僕でも未だに細かいミスを連発します。いかにミスを最小限に抑えて、早く正確にタイプするかがタッチタイピングには求められます。
でも練習をし始めた生徒たちは、ミスが出たらもうそこで集中力が切れたのか一度うな垂れて、また最初からやり直していたんですよ。それも1人や2人ではありません。何人もの生徒がノーミスを目指していました。この現象は今まで見たことがありませんでした。
そして、タイピング練習への集中力が続かない生徒も出てきました。なかなかステージがクリアできずに集中力が途切れてしまい、目に見えて無気力になっていく様子が見られました。しかもこれ、「ASDFJKL:」の練習での出来事です。
今年赴任した学校の生徒が、たまたまそういう性質の生徒なのか?とも思いましたが、どうもそうではない気がしてね。あまりにも多すぎたので、これは世の中でこうした生徒が今後も増えていくのではないかと思ったんですよ。
ショート動画、倍速再生、ファスト教養。スマホが普及してからは短い時間で楽しむことができるコンテンツが増えてきました。僕自身はショート動画はあまり見ないものの、こうした短いコンテンツに時間を奪われる経験があります。
そして、育児に追われる中では連続読書時間も削られているので、あまりまとまった時間で本を読む機会も少なくなりました。まさに今、じっくりゆっくり集中するという習慣がなくなってきているんじゃないかと思うのです。
自分がこういう経験をしているっていうことは、ファストコンテンツの餌食になっている子どもたちなんて、よりその傾向があるんだよなとも察したわけですよ。
あとクラスに1人か2人、タイピングゲームでゲームオーバーすると台パンする生徒がいるのは、時代の傾向ではなく煽り耐性でしょうか。荒野行動やフォートナイトなどで罵声を発するような生活習慣が、彼らをそうするのでしょうか。怒りや悔しさに耐えうる機会というのが、今の時代は少ないのかもしれません。
先日、授業中にマイクラの話になって、ちょっと授業の内容を中断してマイクラの話に突入したわけですが、「クリエイティブでしか遊んでいない」もしくは「クリエイティブの方が好きだ」と話してくれた生徒に他のクラスメイトも同調している様子が見られました。
僕の個人的な感情はこう。おいおい嘘だろマジかよ。マイクラはサバイバルでエンダードラゴン倒してエリトラゲットして、海底神殿行くのが面白いんだろ。全てのブロックを使えるクリエイティブに、何を求めているんだよ。
今年の6月で魚住は39歳。スーパーファミコン世代です。ゲームでセーブと言えば、ロックマンXの数字、それからスーパーマリオワールドで城を陥落させた時か「?ドーム」を踏んだ時。
今の時代の子どもたちを目の前で見ていて思いました。失敗をとにかく嫌がります。失敗しないと学べないことの方が多いというのに。意味のある成功は、失敗を積み重ねないと到達できない。この感覚を持ち合わせていないのかもしれません。
多くの学校で、近頃は部活動への入部が必須ではなくなりました。これは時代の変化だと思います。これまでの考え方では、1年生は全員どこかの部活に入部し、2年生に進級するまでの間はどこかの部活に所属することが求められました。
今はそんな時代も終わって、1年生からどの部活動にも入部しないという選択肢が子どもたちには与えられています。こうした新しい時代が子どもたちから奪ったのは、1つの目標に向かって努力する際に必要な辛抱強さなのかもしれません。
こうして考えていると、ついつい「最近の若者は」なんて考えがちです。これも自分が歳をとったからでしょうか。時には我慢や忍耐が必要だなんていう言葉で抽象化してしまうと、それこそ時代遅れな考え方まっしぐらです。
そんなことを考えるよりも、今の目の前の子どもたちが望む形の教育を、どうしたら提供できるのか。どんな授業の進め方なら、ついてきてくれるのか。
できる人を相手にするのは本当に楽。その上で、ワンランク上のプランを提示できますから。今はそれよりも、学校全体のレベルをどうしたら底上げできるのかを考えています。
今年度高校に入学してきた新入生は、2009年生まれの世代です。僕が社会人1年目の年に生まれました。まだ保護者はガラケー世代。
遠くない未来で、スマホ世代が保護者になります。どれだけメディアで批判的に分析されようとも、相手をするのは現場で働く教職員です。きっと今から考えておくべきことはあるはず。4月も後半に差し掛かり、思うことが多くでてきました。
今回のnewsletterは以上となります。新しい環境に、ただただ戸惑う毎日です。 「いいね」を押していただけるとうれしいです。内容に関するご意見ご感想がありましたら、「#こだわりらいふ」をつけたツイートや、Substack内のコメントまでお願いします。
台パンする生徒が増えたこと、その背景のついても先生のおっしゃる通りかと思います。泥臭くゴールに向かっていく生徒は減ってように思います。
最近、私が気になっているのは、「普通に無理。」です。空を飛びなさいって話をしているわけではありません。課題解決するには、どうする?って話で、その答えが普通に無理。
普通って何かなー?何か試してみたのかなー?と、ものづくりを教えているこちらとしては頭の痛い思いです。