生きることにこだわりを。魚住惇です。今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
唐突ですが、後輩の先生にLinuxサーバーについての勉強をしてもらおうと考えて、余っているRaspberry Pi(ラズパイ)を貸しました。
サーバー用のマシンをASRock DeskMeetで組み、複数のラズパイで運用してきたDockerコンテナをまとめる作業を進めた結果、結構な数のラズパイが余ってしまったからです。
学校では常に複数台のトラックボールを余らせてあり、時折他の先生に貸し出しています。いわば、布教用です。トラックボールに興味はあるけど、自分に合わなかったら嫌だし、損すると勿体ない。そう考える人に一度貸し出して、相性が良ければ自身でご購入。合わなければ返却という流れを繰り返してきました。
もちろんこれをやるにはモノが余っていないと実現できないわけで。この度その「人に貸し出せるものリスト」の中に、ラズパイが加わったことになります。サーバーについて勉強したい人に貸し出せば、その人はひとまずサーバーを自分で買ったりレンタルする前に、試せるわけです。
4月から同じ分掌で働いてくれた後輩の先生には、2024年の4月からこれまでの間、自分が学校でやっている仕事をなるべく一緒に作業したり「これもう授業というか講義じゃん」というレベルで知見を語り、日々引継ぎをしてきました。
約10か月、語りに語ってきましたが、それでも全然引継ぎが終わりません。というか自分が主任をやる前に主任をされていた先生とは、割と話が分かるレベル同士での会話ができていたので、ツーと言えばカーが実現できていました。僕の中での目標は、なるべくその頃の先生との会話までレベルを引き上げることです。プレッシャーかなぁ。
今ではね、VSCodeでpythonやhtml、Markdownを書き、GitHubで共有するようになりました。学校の先生の業務としては、そこまでやるのか?というレベルだと僕は思っていますが、ここを知ることで、少しでもITに興味を持ってくれた時のハードルが下がると良いなと考えて、4月から僕の強いこだわりに付き合ってもらっていました。
Hugoを使ったWebサイトの更新業務のほとんどはもう、彼の仕事です。Markdownで記事を書き、hugo.exeでビルドしたものをFTPでアップロードする。学校のホームページをこのワークフローで更新している学校なんて、全国探しても他にあるかどうか分からないレベルだと思います。
ラズパイを家庭で使うことで、少しでもコンピュータに対する理解度を上げてほしい。
とはいえ、彼と一緒に仕事をしていて思ったのが、性格の違いでした。僕はコンピュータに夢中になった結果、「好きを仕事にする」という現代で割と流行っている考え方で仕事が出来ています。これに対して彼はコンピュータに夢中になるタイプではなく、教科書などの体系が整った環境の中での勉強を好むタイプです。
レベルや段階もあると思いますが、実は同じ情報の教員の間でも、話が噛み合わない場合がほとんどでね。僕がやっていることを話したとしても、「そこまでやる必要ある?」と言われて終わります。僕のような存在は、情報の教員としても稀なんだと思います。
最近になって、やっと分かってきました。その「そこまでやる必要ある?」という考え方の奥底には、仕事をただの仕事だと割り切っている感覚があることに。趣味を仕事にしているわけではないということです。報酬を得ているからその対価として労働している。勿論それだけだとは断言しませんが、僕自身の感覚とは少し違います。
以前、非常勤講師として働いていた公立高校で、ある年に採用された初任者の先生が「仕事にスーツが必要なら、どうして県の予算で買ってくれないんですか。おかしいです。給料が出る前から一通り買い揃えないといけないし、採用試験前にはそんな情報公開されていませんでした。」と文句を言っている場面を見ました。正直な話、「なんでこんな人が受かって自分が非正規やってんだw」と突っ込みたくなるほどの衝撃を受けました。
その先生の伝説はまだあって、校長室に度々呼び出され指導を受けたそうなんですが、その際に「校長先生、なんでそんなにイライラしてるんですか?あ、ひょっとしてお腹空いていますか?私のおにぎり食べます?」と発言したそうです。これも当時伝説になっていました。ちょっと脱線しました。
これを「空気が読めない、これだから最近の若者は」と一言で片づけるのは、少し勿体ない気がします。少なくとも現代の若者は、こういう思考を持つ人がいる。特に仕事とプライベートを完全に分けるという主義の人にとっては、勉強するために購入する書籍でさえも、予算を出してほしいと思っている傾向があります。そりゃお金を出してくれるなら僕としてもありがたいわけですが、個人的には仕事であり趣味であり特技であり生き甲斐を職業にできているので、もう散財が仕事のためなのか趣味のためなのかの区別ができません。
もし彼が、仕事とプライベートをきっちり分けるタイプであるならば、僕自身が余らせているコンピュータを提供することで、より少ない自己負担で学んでくれるのではないかと考えました。
それに対して僕は、本当に仕事と趣味がごっちゃになっているんですよ。これを書いているのが1月12日の午後。3連休の2日目です。正直、早く仕事したいんですよね。3連休は自分にとってかなり長く感じます。早くPythonの授業したい。これはきっと、学校での仕事を単純な労働とは思っていないことが大きいんだと思います。
話をラズパイに戻します。家に余ったラズパイ、そして熱心に引継ぎをしてくれている後輩の先生がいる。これはもう次のステップに進んでもらうしかありません。PCリテラシー講座のサーバー運用編の開講です。(今勝手に名付けました)
この世の中、スマホやパソコンがここまで使えるのは、その画面の向こう側にサーバーがいてくれるからです。しかしサーバーと聞くと、大きなラックに収まった巨大な本体を誰もが想像しがちです。まぁあながちそれも間違ってはいないんですが、サーバーとて結局はサーバー用のアプリケーションが表か裏で動いているだけの、コンピュータに過ぎません。
情報Ⅰの教科書にもサーバーやプロトコルについては単語程度の説明が書かれています。すべての情報の教員が授業でそこに触れるわけです。ただ、実際にサーバーを立ててみたり、運用する人がどれほどいるのかは疑問です。下手するとプロトコルごとのポート番号すら知りません。
見たことがないものや、触ったこともないものを教えるのって、僕としては本当に苦痛なんですよ。これら経験は、生徒への言葉に大きく影響します。生徒がIT関係の仕事に就きたいと相談したときに、具体的なことも何も言えない情報科の教員に、意味があるんでしょうか。これを言い出したら、歴史を教える先生はタイムリープを行い歴史上の人物と会話しないといけないのか?みたいな話になってしまうのでここまでにします。
コンピュータの世界は、まだ追いやすい世界です。少なくとも大き目の書店に行けばトレンドが分かりますし、少なくともネットにも必要な知識をまとめてくれているブログが多数ありますから。参加する飲み会が名古屋駅の近くで行われる日は、僕は大抵、高島屋の本屋に行って、1時間近く時間をつぶします。そうでないとネットからの情報しか受け取れませんから。
LinuxというOSに触れたのは大学1年生の頃でした。大学の1年生の授業にはパソコンの操作に関する授業があり、Linuxの使い方そのものはそこで習いました。ここまでは他の学生さんと同じ。1年生での必修科目です。僕はその後に、家で余っていたWindows95時代のノートパソコンにLinxuをインストールして、サーバーとして使ってみることにしました。大学の授業に出てきた、自分がこれまで知らなかったOSを、家でも触ってみたいと思ったからです。
それからすぐに始めたのが、メールサーバーでした。当時はガラケーの時代だったので、Yahoo!天気から天気予報の情報を正規表現で取得するPerlをCronで動かして、毎朝7時にメールで配信するようにしました。後にメーリングリストの機能を使って、友人ら10人にも送るようにしました。大学で学んだことを自分の生活にも応用したくて、メールサーバーの実運用を実際にやってみたわけです。それも高校を卒業してすぐのこと。
当時はたまたまノートパソコンが自宅で余っていたので僕の場合は良かったんですが、サーバーを勉強したいと思ったときにコンピュータが余分になければLinuxをインストールすることもできません。サーバー運用の練習という意味では、ノートパソコンはうってつけなんですけどね。バッテリーも内蔵しているので、無停電装置も不要です。
WindowsでもMacでもないOSを動かすコンピュータが自宅にあるだけで、生活が一変しました。ネットワークの知識は嫌でも身に付きましたし、コマンドを叩くことが日常になりました。LInuxというOSを使っていくだけで、コンピュータそのものについての理解も深まった気がします。
大学時代は、それこそ後にNTTやNECに就職するような先輩たちの元でサーバーやネットワークについて勉強させてもらいました。かなり恵まれた環境でコンピュータについて学べました。そう考えるとね、今だと思ったんですよ。恩を送るタイミングが。自分が受けてきた感動を、あのワクワクを伝えたい。
サーバーを理解するだけで、世の中のネットワークやコンピュータについての理解度が1段階上がります。この世の中が如何にサーバーだらけで動いているのかも理解できます。ただWindowsを言われた通りに操作するだけの生活から、サービスを提供する側を経験することになります。労働者から経営者になるほどのインパクトです。これが余っているコンピュータで経験できちゃうわけだから、コスパなんて言い出したらめちゃくちゃ高いに決まってます。
大学時代、あのとき自分には余っていたノートパソコンがあった。もしそれがなかったら。サーバーについて勉強したい自分に必要なものは何だったんだろう。ただWindowsを操作するパソコン人生から脱却したい自分が、欲していたものは。
そうなるとね。気になるわけですよ。ラズパイを貸したことが、大きなプレッシャーになってしまっているのではないかと。俺はこれだけ人生変わったんだ。お前も俺と同じように人生変えろよなんて、パワハラもいいとこです。でもね、それはそれとして、たまたまガンダムを見返していた時に、ふと気になるフレーズが頭に残りました。
機動戦士ガンダムSEED Destinyでは、主人公の友人であるアスラン・ザラの元へ、インフィニット・ジャスティスガンダムが贈られました。アスランは見慣れた自分用として開発された機体を見て、「ジャスティスか」とだけつぶやきます。そしてその後、「君も、俺はただ戦士でしかないと。そう言いたいのか」と、ヒロインであるラクス・クラインに続けて言いました。
これに対して主人公キラ・ヤマトは、アスランが何かしたいと思ったときに、肝心な機体がないと何もできないから、そっちの方が辛いのではないかと考えて、ラクスにガンダムを運ばせたのでした。確かにザフト軍として都合の良いように使われてきたアスランにとって、また兵器を渡されるのは「これで戦争に参加しなさい」というメッセージに捉えられるかもしれません。それでも機体を使って再び戦争に参加するのもしないのも、本人次第だということを伝えた上で、再びガンダムをアスランに託したわけです。
僕自身もこれに倣い、ラズパイを好きに使って良いものとして、彼にしばらく貸し出すことにしました。
ひとまず、
- ls,cd,pwd,cat,sshコマンド
- nginxのインストール
- Webページの公開
までは一緒にやりました。既に業務の一環としてpingとipconfigは使えるようになってくれていたので、その復習も兼ねて金曜日の部活動の時間に商業部の活動にも参加してもらいました。
どうか重荷だと思われない程度に、サーバーについて理解を深めたり、楽しんでくれたら、嬉しいなぁ。次は、Sambaのインストールをやってみようかしら。あと権限関係でchmodも。
コンピュータの何が好きかって、これほどコスパ良く勉強することができて、しかも勉強した内容がそのまま生活に活用できる趣味って他にないと思うんですよ。スマホについて理解が深まれば、これまでより安くiPhoneを手に入れることができる。サーバーを立てたら、自分の生活が豊かになる。勉強した分、知識を活かせる場面が多いんです。
愛知県ではオンプレミスのサーバーをクラウド化する流れがあり、物理サーバーがどんどん減っています。狙いはITに詳しくない先生が、情報の先生の欠員が出ているために無理やりサーバー管理者を担うという悲劇を防ぐためです。パソコンに詳しくない人にとって、これほどの地獄は他いにないと聞きます。
ただ、クラウド化するということは、現場の負担を軽減するとともに、知識がなくても使えてしまうという側面もまたあります。ITの世界は無知な人にとってある程度ハッタリが効くこともあるので、半端な知識も持たない人が勝手に持論を展開し、一丁前に語っている様子も多々見られます。正直言って虫唾が走ります。
だったらせめて、自分と関わってくれる人には、触り程度で良いからコンピュータを触ってみてほしい。ラズパイを通して、Linuxやオープンソースの考え方に触れて欲しい。そう思って、彼にラズパイを貸してみることにしました。これまで蓄えてきた知識の点と点が線でつながり、より理解が深まることを期待しています。
あ、そうそう。僕は僕で散財が止まらなくてね。10GBASE-Tのスイッチが欲しくて、定価24万円するスイッチングハブを買っちゃった。思った以上に安く買えたんですよ。夢の10Gitabitだぜひゃっほい。
今回のnewsletterは以上となります。本当はこの活動を通して「夢中」とは何かについて考察していたんですが、文字数的にはここで区切りたいと思います。
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