HHKB US配列無刻印黒を買うことを決意した女子生徒の話
生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
タイトルに興味があり、リンクをクリックしてくださった方、申し訳ありませんが、3つ目の見出しの話です。HHKBの話だけを読まれたいのなら先2つの見出しを飛ばしてもらっても構いません。
大手手帳メーカーの方が、東京から会いにきた話
そう、それは、昨年の年末のことでした。 職員室の電話が鳴り、他の先生がでた後に、こう言われました。
「魚住先生、お電話です。」
はて、今日はどこにも電話していないから折り返しというわけでもない。どなたからだろう。
そんなことを考えながら電話を替わりました。
すると事務の方からの転送が入り、電話の主の方の声が聞こえてきました。
「魚住先生初めまして。○○(大手手帳メーカー)の▲▲と申します。先生が書かれた『教師のiPad仕事術』を拝読いたしました。ブログも読ませていただきました。是非一度お会いしたくて、お電話差し上げた次第です。」
ぎょええええええええ!え!○○って、あの○○!?
もう心臓が飛び出るほど、ビックリしました。
そして先週の水曜日。ちょうど前のnewsletterの配信日だった日の夕方に、僕の勤務校に来てくださったのです。
実は12月の終業式前にこのお電話をいただいてから、その日をずっと楽しみに過ごしていました。
もう正月なんて過去のことです。僕にとってはこの手帳メーカーの社員さんと出会えたことが、本当に嬉しくて、今思い出すだけでもニヤニヤしてしまいます。
いけない。その方はこのnewsletterも登録いただいているんだった。ちょっと気をつけながら書きます。
あ、これだけは書いておこうっと。その方、東京からわざわざ来てくださったんですよ。年末に電話をしてくださった際に、「愛知県のさらに田舎にある学校まで来ていただくのも申し訳ないので、Zoomなどでも大丈夫ですよ。」と僕は申し出てみたんですが、サラリとかわされて会うことになりました。
で、会って話した結果どうなったかというと、 何もありませんでした。
いや、こうやって書くと失礼ですね。具体的にいうと、その企業の製品を購入したり、契約したりという、ビジネス的なやりとりというのが一切ありませんでした。
お会いして2時間ほどお話ししたんですが、もう、ずっと手帳の話をしました。
あと、今の学校の授業の形態などについても。
僕は中学校時代にシステム手帳に目覚めて、大学時代に超整理手帳を持ち、今はスクールプランニングノートのアンバサダーをやっているほどの手帳好き。
そんな僕が、ついに手帳メーカーの方とお話しする機会があるなんて!と感動しっぱなしで、ずっと手帳について熱く語っていました。
手帳と言っても範囲は広くて、スケジュール管理やタスク管理、目標管理など。それから自分との対話を実現するためのノート術など。様々な用途に使える手帳を、これからのスマホの時代に、何を目的として、どのように使っていくのか。
これは人によって見解が違うものなので、人と話していて、自分が考えているところと違う部分がわかるのがまた面白くて、 もう、ずっとずっと話していました。
手帳で2時間、話すことある?と思う方も多いかもしれませんが、僕はこれでも、2時間で抑えた方です。もっと話したいことはたくさんありました。
この方といつか一緒に、何か仕事ができたら、どんなに楽しいんだろうなぁと思いながら語り合った時間は、本当にあっという間でした。
以前からもnewsletterに書いてきたことですが、近頃はこうしたリアルでの接点が増えてきました。自分でも驚くくらい。 これが、インターネットの力なんだなと、しみじみ思います。
ネットがなけりゃ、こうした出会いは起こりえませんでした。『教師のiPad仕事術』の編集者さんとだって、ネットがなかったら連絡を取り合うこともありませんでした。 人と人とが繋がるためのインターネットは、正しく活用するとここまで人生が豊かになり、自分の願いが叶ったりするんだと、今まだに僕自身が体験しています。
学校ではなかなかこうしたことを教えることは難しくて、やれ個人情報が流出するだの、やれトラブルに発展するだの命を狙われるだの。そんなことばかり話す人もいます。確かに使い方を間違えば、不幸なことが起きるのもネットですが、正しく使うことで、こんなにも人と繋がれて、自分の人生に良い影響を与えてくれる。
これは本当に、素晴らしいことです。職場では僕だけが思っていることかもしれませんけど笑。 こうした人との繋がりを大切にするようなインターネットの使い方を、学校で教えるべきだよなって思います。
そうそう、昔は「ネチケット」と呼ばれていたネット社会上のモラルのことは、この前までは「情報モラル」と呼ばれていました。
でも今、「情報モラル」も死後らしいんですよ。
今は、「デジタルシティズンシップ」って言うらしいですよ。 もうスマホとかネットとか、危ないから禁止!なんてことはできない時代だから、うまく付き合う方向をみんなで考えましょうっていう考え方のことだそうです。
これについても、いつか生徒たちと一緒に考えたいことの一つです。
薄っぺらい「べき論」じゃなくて、具体的な行動を語り合いたいんだ
愛知県が県立高校の全ての生徒向けにタブレット端末を配布するというニュースが、僕の中で話題です。 先週、こういうツイートをしました。
少し前に、工業や農業などの職業科高校の生徒数分のタブレット端末を配布するということが、愛知県の補正予算に関する公式発表からわかりました。 けど今回のは、県議会の記録にも書いてないし、一体どこから情報が出たんだろうという疑問があります。 既にニュースとして話題になっているので、後には引けず、きっと実現すると期待したいところです。
このニュースの概要はこんな感じで良いでしょう。 これから話したいのは、僕のツイートに対する反応についてです。
僕はこのニュース、かなり好意的に受け止めました。
というのも、本来ならば文科省がGIGAスクール構想の補正予算に計上してくれたのは、高校生向け端末代は生活困窮家庭向けだけだったからです。残りの全ての端末代は自治体か保護者負担のはずでした。
これまでは愛知県はBYOD端末を授業に取り入れる方針でいたため、僕としては保護者負担で購入してもらうのか、スマホを授業中に活用することを校則で認めるのかを決めなければならないと考えていました。
愛知県教育委員会の方針では令和4年度入学生、つまり今年の4月の新入生から、情報機器を1人1台用意した状態での授業が始まる予定です。
僕の主観では、常日頃から教育委員会や文科省が声を大にしてGIGAスクール構想の実現や、新しい学習指導要領に関する情報を発信し続けている印象があります。ただ残念なことに、ICT機器を授業中に使わせることそのものに不安を感じる先生方も多くいらっしゃいます。
これはすごく当たり前の話です。少なくとも今、教員として働いている世代の大人は、コンピュータを使った学習というのを学生時代に経験していませんから。 それに近頃のスマホやネットについてのニュース記事を読んでみると、スマホは新しいドラッグだとか、SNSやゲームは依存だの中毒になるだの、ネガティブな内容をよく目にします。
僕はスマホの普及を生活スタイルの変化として受け入れた上で、どう活用しながら付き合っていくかを考えながら生活するべきだと考えています。
ただそういう考えな人は学校の先生の中では少数派で、「私たちが学生の頃にはこんなものは無かった。だから今後もこんなものは学習には必要ない。」という意見の方が多数派を占めています。
特に今年度は、こうした多数派の考えが渦巻く中で、「愛知県教育委員会が、令和4年度からBYOD端末を使って授業をやってくださいって言ってますよ」と周知したり、計画を立案し進めることで、校内での魚住の評価が綺麗に二極化したように感じました。
個人的にはICTと非常に相性が良い科目を教えているので、ここ最近のGIGAスクール構想そのものにワクワクしています。それに我々県立高校の職員は、文部科学省が定めた学習指導要領に従い、自治体に設置された教育委員会の指導の下で授業を行うのが筋というもの。 そこから逸脱して、自分の考えだけで授業を行うという考え方そのものが、僕にはありません。
今年度に入ってからは特に、自分と志を共にしてくださる先生方と交友を深めたり、タブレット端末の扱いなどに困っている先生方のトラブル解決に尽力したりと、周りの先生方をサポートすることが増えました。
昨年度のことをちょっと反省すると、「なんでみんなもっと、GIGAスクール構想やタブレット端末を使った授業の手法について、知ろうとしないんだ!」みたいに、他の先生方に不満を抱いていたことが僕にもあったわけです。 今年度からはこの辺りを改めて、「本当は、端末を使った授業をやらなければならないっていうことくらいは十分にご理解されていて、それでもハードルを高く感じたり、トラブルを恐れているからこそ、なかなか最初の一歩が踏み出せずにいる先生方が、多いのではないか。ただひたすら突っ走って、ついてこれない人の文句を吐き散らかすのはマウントを取ってドヤっているのと同じではないか。それなら、一緒に走るつもりでガンガンにサポートをしまくった方が、まだ前に進められるのではないか。」と考えるようになりました。
さて長くなりましたが、ここまでが前置きです。 僕としては、こういう状況の中で自分がどう行動するべきかを考えて、実際に行動してきました。 新しい情報を得て、「これはこうあるべきだ」と思い、それに向かって自分にできることは何かないか考え、やれることをやってきた。そういう実感があります。
しかし今回の一件で残念に思ったのは、こうした行動を伴わずに、「これはこうあるべきだ!」とだけ発言をし、僕自身が実際に行動している内容を否定されたように感じてしまったことがあったからでした。
声を上げる。これ自体は声を上げないよりかは良いかもしれません。ですがTwitterやYahoo!ニュースのコメント欄などを見ると、あまりにも無責任な発言が目立ちます。 こうしたコメントが無責任だと思われる理由は、「立場や身分が公開されていないから」だと、僕は考えています。
ネットが一見匿名かのように見える中で発言した方が、実名よりも自由な議論ができるという意見もありますが、議論を深めていくには立場だったり身分を明かした方が、その人となりが見えてきて、無意味な「べき論」にならずに済むと思うのです。
ネット上での発言が全て無意味で価値のないものとは思いませんが、発言の信頼性は重要な要素だと僕は考えます。
だからこそ、今回の愛知県の全ての県立高校の生徒に1人一台タブレット端末が配備されるというニュースを見たときに、 「その端末の設定くらい、全部魚住がやるから!!旅費さえくれたら勤務時間中にやるから!出向くから!呼んでくれ!!」と心の中で思わず叫びました。 Azureだって触るし、プロビジョニングだってやるし、バッチだって書くから!、ICT支援員の配置を願うくらいだったら魚住を呼んでくれ!行くから!
ちょっと「!」を多く使ってしまいました。少し興奮しています。
こう思ったとしても、Twitter上で更にこの意見でかみついたとしても、会話はかみ合わないだろうなと悟りました。
僕は常日頃から、「もっと魚住という人材を活用してくれたらいいのになぁ」と思って生活しているので、ついつい熱くなってしまいます。 タイムラインであーだこーだとべき論を語り、いいねを押されてたとしても、自分の職場にも還元されないこともわかっています。 あのTwitterアカウント、どう見ても愛知県職員の職員番号のような数字の羅列。その先生がご自分の職場で困っていらっしゃるのなら、いつでもどこでも駆け付けるのになぁ。
WindowsもMacもLinuxもiPhoneもandroidもiPadも触れる、CCNAを取得したこともある。そんな魚住が暇しているのは、勿体無いなぁと思う今日この頃です。
HHKB US配列無刻印黒を買うことを決意した女子生徒の話
最後にちょっとだけ明るい話をします。 生徒本人には、誰だかわからないように書くならOKですという了解を得た上で、台詞などを載せています。
僕は今年度から、商業部という商業科目を選択し、資格取得を目指す生徒が勉強するための部活の主顧問になりました。
生まれて初めての、文化部の顧問です。
生徒からの目線とはまた違った視点で言うと、一部の例外を除いた文化部というのは、運動部の顧問が諸事情でやれない先生が顧問となります。
僕は講師時代には「ちょっとだけ、見とるだけでいいで。」という言葉に乗せられてバスケ部の主顧問(講師なのに主顧問)をやらされましたし、初任者時代はサッカー部の主顧問もやりました。このこと自体には後悔はなく、僕はむしろ与えられた環境で頑張ってきたつもりです。
でも、生徒には申し訳ありませんが、自分の子どもとの時間を削ってまで運動部の主顧問をやるというのは、僕はどうしても無理だなと思いました。
たまに、妻のゆかさんが買い物にでかけている間に、子どもの面倒を見るわけですが、もう午前中だけでギブアップです。これを朝から夕方まで平日毎日見てくださっているゆかさんには、本当に頭が下がります。
で、今年度から晴れて商業部の主顧問になりました。 2年生や3年生は昨年度の方針などを継承して活動しているので、特に口出しはしていません。 でも1年生は昨年度まで顧問が違ったとか、そういう話とは関係なく入部してくるので、魚住の商業部として見てくれます。
そんな感じに4月にスタートした商業部の1年生には、ずっとタイピング練習をさせてきました。
夏休みも、冬休みもずっとです。1年生はずっとタイピングの速度と正確さを追い求めてきました。
10月頃からでしょうか。速度がそこまで早くなくても、手元を見ずに入力できる生徒がそこそこ増えてきました。 僕が見て、「お、手元を見ずに入力できているし、結構速くなってきたじゃん。」と思えるレベルです。
自前でリアルフォースを2台用意し、部費でもリアルフォースを1台購入し、今でもタイピング練習をさせています。
僕がキーボードにどれくらいこだわっているかは、もう部員は嫌というほど知っています。 それが伝わったのか、スマホ用にキーボードを購入したという生徒も出てきました。 素晴らしいですね。
そして先日、とある女子生徒が、キーボードを購入したいがどれにしたらよいのかわからないと相談してきてくれました。
生徒「先生、キーボードを買おうかなって考えてます。」
魚住「ほうほう。どれくらいの大きさが良いの?」
まずは、大きさの確認です。フルのキーボードが欲しいのか、テンキーレスが良いのか。それとももっと小さいのが良いのか。ここでまず、大枠が決まります。
生徒「なるべく、小さいのが良いと思っていて~。あとあの、”軸”って何ですか?」
まてまてまてまて。”軸”なんて言われたら、語らなければならないことが多すぎる。
魚住「とりあえず軸の話は置いておこう。まずは、大きさからじゃ。どれくらいの大きさが良いの?」
僕はまず、コンピュータ室の演習機備え付けのキーボードの横にテンキーレスのリアルフォースを置いて比べてもらいました。
生徒「テンキーは、無い方が良いです。」
魚住「じゃあ、このカーソルキーのあたりは?その部分も不要?」
生徒「無い方が良いです。あと英語配列?が良いです。」
魚住「HHKBだ」
軸の話が出てきたことも含めて、その後続けて話をしました。
その時は、どうやら自分が良いなと思っていたキーボードが紹介されているサイトを見せようとしていましたが、うまく見つからない様子でした。
でもテンキーもカーソルキーも見当たらない大きさのキーボードのことが「60%キーボード」と呼ばれていることを説明して、Amazonで販売されているキーボードの画像を見せると、見せたいキーボードの形が大方当たっているような反応をしてくれました。
どうやらストロークが深い方が好みだということも考えて調べていたら、軸の話に辿り着いたようです。
さてここからは、自分の指の力などと相性が良いキーボードについて、ひたすら検証してもらいました。 顧問として僕が用意できたのは、
茶軸
赤軸
青軸
白軸
静電容量無接点35g
静電容量無接点45g
です。あとは少しラバードームが固めのHHKBと、HHKB雪を試してもらいました。
青軸については、「ちょっとこれは音が・・・」と引き気味な様子で、茶軸は「タクタイル感が割と好み」と答えていました。 リニアな赤軸と白軸は、「打ってる心地がちょっとしない」という感じで、割とタクタイル感があって、そこまで重たくないキーボードが良いというのが、辿り着いた答えでした。
最終的に出した答えが、「HHKB」でした。
Amazonなどで売られている60%キーボードというのは、キーボードの右下や左下にもキーがあり、下手すると右下あたりにカーソルキーが割り当てられています。これがまず、タイプミスを誘発することを悟ったそうです。
そして決定的なのは、英語配列のBSキーとEnterキーの位置関係でした。 日本語配列と英語配列、その両方ともを使っていた彼女は、一般的な英語配列60%キーボードの、EnterキーとBSキーの間にバックスラッシュキーがあることに気づきました。
そしてHHKBの英語配列だと、Enterキーの上がBSキーで、BSキーが遠くなく、右小指で押せる範囲にあることも好感が持てたそうです。
そしてなんと、「黒の無刻印」を希望してきました。
生徒「無刻印にしようか迷ってます。だって、無刻印の方が美しいじゃないですか」
魚住「よし無刻印じゃ」
最後はちょっと押し気味に無刻印を進めましたが、既にアルファベットのキーを見ずに打てているので、記号も時間の問題だろうと考えました。
「だって、無刻印の方が美しいじゃないですか」が、まだ頭に響いています。 おそろしい子に育ってしまった。 進撃の巨人で言うなら、驚異の子です。
ノートパソコンのようなストロークが浅いものではなく、60%でカーソルキーがない。そしてタクタイル。
相応しいキーボードはまさしくHHKBです。
これをキーボードの変態と呼ぶかどうかはさておき、行き着く先がHHKBなのはエバンジェリストとして、また顧問として嬉しい限りです。
最終確認として、保護者にも連絡を入れました。お買い上げです。 顧問として、信頼されているんだなとも実感しました。
ちなみにこの女子生徒は、高校1年生です。 高校1年生のうちからHHKBを使い始めた生徒が、これからどう育っていくのか。 将来がとても楽しみですよ。 毎日パソコン入力コンクールの全国大会、引率したいなぁ。
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