答えを"丸写し"した夏休みの宿題に意味はあるのか
生きることにこだわりを。魚住惇です。
先週で期末考査が終わり、今は成績処理の時期を迎えています。愛知県の高校の終業式は18日。あと9日ほどで子どもたちは夏休みです。
この時期になると、各教科の先生方は夏休みの課題(宿題)を生徒に配布します。自分が高校生だった頃も10ページを超えるようなプリントが配布されて、ホッチキスで留めることで冊子になるような印刷になっていました。
エグいほど課されるあの宿題の分量。そしてそのほとんどを”解答を書き写す作業”にしてしまっている生徒たち。かつては僕もその一員でした。
実はあれね、単位認定に関わっていることが、実際に教員として働いて分かったんですよ。あまり詳しくは言えないんですけどね。とにかく進級や卒業にはあれが必要だということです。
では、学習として進めるのではなく、実質的に答えを書き写す作業になってしまっている生徒がいるという現状についてはどうしたら良いのか。
これはもう、生徒に委ねるしかありません。課題の課し方が問題演習である以上、この懸念は避けては通れません。これが自分なりの結論というか、落としどころです。
生成AIが登場したとき、読書感想文を生成AIに書かせることでの文章力低下がかなり懸念されて話題となりました。これだから生成AIは危険なのだと、まだ子どもには早いんだと危惧する先生方も未だに多くいらっしゃいます。
ただ、もう少し上のレイヤーで見たときに、似ている事象がないか考えてみると、
読書感想文を詳しい人に書いてもらう
過去の感想文を書き写す
など、これまでも似たようなことはあったわけです。生成AIがなくともネットに掲載されている感想文を書き写す生徒はいましたし、ネットがない時代でも感想文が得意な人に頼ることは起こりえたと思います。
というか僕自身がそうで、過去の配信にも書きましたが課題図書の内容と僕の感想を母親に一通り話すと、原稿用紙のはじめから終わりまでの文章を話してくれたので、僕はただそれを書き写して提出していました。
これが良かったのか悪かったのか。読書感想文を自分自身の力だけで書いていないという意味では疑問が残るかもしれませんが、現状でいえば、僕はこうして文章を楽しく書いていますし、本を出版する機会にも恵まれました。書くための材料をそろえて、それらを基に文章を組み立てていくという営みの原点は、読書感想文の体験です。
今の時代に例えるなら、生成AIに文章を書いてもらうとして、与える材料と出てきた結果を照らし合わせて、「なるほど、そうやって材料を使うのか」と学習する感じでしょうか。これは生成AIが登場してから僕自身がこの手法で学べているので、割とアリな気がします。
課題の取り組み状況で考えると、100歩譲ってすべての内容を書き写したとしても、例えそのときにプリンターになり果てたとしても、書き写す行為はしてくれたんだと評価できます。僕の初期の読書感想文と同じです。
そりゃ本当なら書き写したりせずに、こちらが素晴らしいなと判断できるような方法で取り組んでほしいんですけどね。それをやってくれるのは一部のまじめな生徒だけです。
そんな中、魚住は情報Ⅰの夏休み課題でどんなものを用意したのか。今回はそんなお話です。ちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
「じょうほうらいふ」に問題演習機能を実装した
どんな結果になるにせよ、”課題に取り組ませた”という事実が残るための課題を課さなければなりません。本音を言うと学習効果があってほしいものですが。
自分が高校生の頃とは違い、ほぼすべての生徒がインターネットを利用する今の時代では、情報が紙であることが働き方改革のボトルネックになっています。
これが進学校ならまた違った形になったかもしれませんが、今の学校では大学進学の際に一般入試を選択する生徒が存在しません。というか専門学校・短大・四大に進学する生徒は学年6クラスで1桁しかいません。共通テストもみんな受けません。
そんな学校で、情報Ⅱを教えるって。何すんの一体。というのが今年度の僕の課題なので、ここを見据えた夏休み課題というのを考える必要がありました。
というわけで「じょうほうらいふ」に実装したのが、問題演習の機能です。
今の時代、生徒に問題を解かせるための方法はいくつかあります。
プリントを用意し、配布
ウェブフォーム(MS FormsやGoogleフォーム)を作成し、URLを伝える
ロイロノート等教育プラットフォームで配信
自分が教える科目で生徒に課題を配るとなると、どんな手段を選ぶのが最適なのでしょう。あ、この問いはなんだか教科「情報」っぽいですね。メディア論にも多分近い。
例えば数学など解答する際に自由記述が必要な場合は、紙の方が重宝すると思います。ただ回収してチェックすることを考えるとデジタル化した方が効率が良くなります。生徒にとってデジタル化が果たしてどうなのか。解きづらくなってしまっていないか。そのあたりのトレードオフがポイントだと思います。
英語は教育プラットフォームを利用すると動画や音声を扱うことができるので、GIGAスクール以降の手法はかなり変化していそうです。生徒の音読をAIによる自動採点で単語の発音などを判定してくれる機能は既にMS Officeに実装されていますし、翻訳が気軽にできるようになった今、課題の出し方が問われている科目だと個人的には思っています。
こうして考えていくと、教科「情報」では課題配信に使うメディアは、生徒の質に大きく左右されます。されるんですよ。
1学期の中間考査・期末考査で実施した内容は
著作権
産業財産権
肖像権・パブリシティ権
2進数、10進数、16進数の相互変換
音のデジタル化
画像のデジタル化
圧縮(ランレングス圧縮、ハフマン符号化)
前半は情報を扱う上での権利面のお話、モラル教育ですね。後半はコンピュータサイエンスの初歩の部分です。個人的にはコンピュータサイエンスの分野って、結局は情報というものを扱う上で、現状はビットで動くコンピュータで処理を行うから必要なだけだよなという理解でやっているので、「情報学」を教えるとなるとちょっと脱線している印象があります。
僕自身コンピュータのことは大好きなので、ビットとかバイトとか、このあたりの計算はるんるんしながら解くんですけどね。一方で本筋ではないなとも思っています。「情報」そのものをどう扱うのか。僕自身の興味はここにあるので、Obsidianなどのお話も大好きなんですよ。
それでも今年度から赴任することになった工科高校は、そんなことも言っていられないくらい、工業の学校です。僕自身が勝手に感じているだけですが、プレッシャーがすごいんですよ。「工業の科目をつぶしてまで実現されてる情報Ⅰ・Ⅱで、あなあたは工科高校でどんなメリットをもたらしてくれるんですか?」って、いつも見られている気がしています。勝手に感じているだけですけどね。
先生方はとっても良い方ばかりだし、PCに関しても僕の変態度が高いのもやっと認知され始めたので、少しだけ居心地がよくなりました。
そんな学校で成果を残すとしたら、情報整理だの言っている場合ではなく、もうコンピュータサイエンス寄りな授業に寄せることが必要だなと考えました。これはまぁ言ってしまえば前任校でもやってきた内容をとにかく生徒たちに定着させることなので、これまでの延長線上な感じの印象を受けます。
それと、学力的には定員割れしている学校なので、あまり多くの認知能力を必要としない課題の取り組み方に対応する必要もありました。
ま、こうなるわな。要するに四択問題を解かせまくるということです。
解答してみると、こんな感じにその場で正解がわかるようになっています。
で、全問正解すると修了証の画像が発行されるので、この画像を提出することを夏休み課題にしました。一応今回はロイロノートというサービスの課題提出機能を使いましたが、これならTeamsの課題機能でも扱えるのでプラットフォームをいつでも乗り換えられます。
感触で言うと、真面目な生徒は正攻法で解いてくれますし、ちょっとでもズルしてやろうと考えている生徒はてきとうな答えを選んでわざと不正解にして正答をスクショしまくって、2週目の最速クリアを目指したりしています。
今の学校ならね、僕はその攻略方法でも全然良いと思ってるんですよ。理由はどうあれ、スマホの写真アプリを情報Ⅰの問題演習のスクショでいっぱいにさせてるんですから笑
ノートに正解を書いて、それを見ながら解いている生徒もいますけど、それだって結局はノートに書いてる時点で勉強0時間とは差ができそうです。それならほらもう勉強させたと一緒!
試しに授業の余った時間に試行させてみたんですが、正解・不正解が画面に出たときに、割とテンション高めにリアクションしてくれるのが実に興味深いんですよ。あぁ、この勉強嫌いな子たちだって、こうして問題に正解したり不正解することで一喜一憂してくれるのかと感心させられました。
実はこのサイトに致命的なバグが見つかったりと、割とその対応に追われる数日間を過ごしていました。正解したのに正解率が100%を維持できなくて修了証が発行できないとか、不正解だった後に前の問題に戻って選びなおしても正解率が100%を維持できてしまうとか。
こういう想定外の動きをしたときにももちろんClaude Codeにも頑張ってもらうわけですが、こちらがある程度目星をつけてバグ修正を行わないと正しく修正されません。この辺りは前回お話した件が生きています。
僕自身はプログラマーとしての人生を歩んだことはありませんが、こうしてサイトを作って生徒に公開して使ってもらうことで、割と近いことをやっているんじゃないかと思うのです。特にバグのせいで修了証が発行できない件は、かなり生徒をイラつかせてしまいました。ちょっとプログラマーの苦悩というのを体験できました。
ちなみにこのサイトを他の情報の先生にもぜひ使ってもらいたいと考えた結果、ライセンスを明示することにしました。CC BY-NC-SAにしました。これね、情報ⅠでもCCライセンスについて授業をやったんですよ。CCとはクリエイティブコモンズの略で、著作権者側からライセンスを明示することで作品を利用しやすくするための取り組みなんですよ。
BY クレジットの表示
NC 非営利
SA 継承
いやー、まさか授業で説明したCCライセンスを、自分が使うことになるとはね。こうした活動によって、僕自身が情報Ⅰで勉強したことが身になっている感がありますね。
BY-NC-SA、この3つを守ってくれるのなら、利用するのを自由にしたわけです。要するに「魚住惇が作った」「子どもたちに無料で使わせる」「改良バージョンを派生させて公開するなら同じライセンスを継承して」と縛ることで、他の学校の生徒たちにも無料で利用できるようにしました。
GitHub - jun3010me/joholife: 魚住惇が運営している高校教科「情報Ⅰ・Ⅱ」の学習支援サイトです
サイトを作るためのデータもすべてGitHubで公開していますし、問題演習の問題の部分のフォーマットも決めているので、問題を追加するときの方法もまとめてあります。
DXハイスクール事業に関わっていると、「わが社の教育サービスを利用しませんか?業務の効率が上がりますよ」みたいな営業をよく受けます。「今ならEdTech補助金で無料だから」という話もめちゃくちゃ来ます。
確かにプロの方々が作ったサービスなのですから、そりゃ使い勝手は良いに決まってます。でもお金を払うんですからね。子どもたちが。
これまではそうしたサービスを見る度に「あぁ、そりゃお金をかけたらそういうの用意できるよなぁ」なんて思っていました。それをカバーするためにあの手この手を使って授業だって工夫していました。
ところがですよ。Claude Code、つまり生成AIを使いまくることによって、僕自身だけでサイトを立ち上げて、今回は問題演習のページさえも用意できてしまったんです。もう、僕の中では大革命ですよ。「どこの問題配信サービスを使ってるんですか?」じゃあないんですよ。AI使って自作してるんです。無料ですよ。ゲームチェンジャーです。
まだ試していませんが、これ多分問題文を読み上げる機能とかも付けられそうです。夢が広がりまくり。
「わが社の学習プラットフォーム、使いませんか?」
「あ、結構です。自分で作ったものがありますので。」
「うちのプログラミング学習サイト、使いませんか?」
「大丈夫です。スマホからも利用できるプログラミング学習サイトを自分で作ったので。」
あああ、このGIGAに便乗する系サービスに一切頼らず、似たようなものを実現しているってのが、もうたまらんのですよ。あれこれ本当はお金取れるのかな?とまで思ってしまいそうですが、趣味の一環ですしこうしたサイトを作っているだけで楽しいので、儲ける仕組みなんて考えません。
まだまだコンテンツの中身はお世辞にも充実しているとは言い難いし、情報Ⅱの範囲も作らないとなと思っています。張りぼて部分こそ多いものの、徐々に機能を追加していくのが楽しくて楽しくて。最近は教材研究としてこのサイトをいじってばかりいます。
今の学校の子どもたちを見ていると、経済的に苦労されている家庭の話をよく耳にします。ただでさえ食べていくのに苦労する昨今なのに、勉強するのに更にお金がかかるというのも家計圧迫の原因になりえます。
情報Ⅰを勉強する子どもたちが、楽しく勉強できるコンテンツに無料でアクセスできる世の中になってほしい。あ、ないなら作るか。
教科「情報」にもっと興味を持ってもらえますように。今はただ、作業そのものを楽しみながら、夏休みを過ごそうと思っています。
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