生きることにこだわりを。魚住惇です。
前回の配信では、僕が初めて勤務した学校について少しだけ語りました。先週分を書いているときに、実はもっと話したいことが出てきました。でもその話も同時にしてしまうと話が長くなるので、今回の配信に回してみました。
今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
共有する仕組みが存在しない
学校名は敢えて今回はぼかします。僕が大学卒業後初めて、常勤講師として勤務した学校でのことです。
その頃はまだ、愛知県の県立高校には教師向けの端末が一人1台も割り当てがなくて、2人で1台でした。もうこの時点でびっくり仰天ですよね。プリントを作るのも、ネットで調べものをするのも、2人で譲り合って使うんですよ。しかもノートパソコンなので、棚になかったら相方の先生がどこかに持って行っちゃったということです。もうこの時点でストレスMAXでした。
当時は申請さえすれば、個人端末を職場に持ち込んで業務に使っても構わないという運用ルールだったので、初任給ですぐさま大須のツクモ電機に行って、自作PCを組みました。当時のCPUはCore2Duoでした。キーボードは途中からリアフォにしました。トラックボールはこの時初めて職場用を購入しました。それまでは自宅で使っていたトラックボールを毎回大学に持って行ってました。
そしてまず困ったのが、引継ぎがないということでした。これは前回お話した通りです。でね、何が言いたいかというと、引継ぎがないってことはファイルが存在しないということなんですよ。しかも衝撃だったのが、共有フォルダがなかった。
信じられます?共有フォルダが存在しなかったんですよ。共有フォルダ。では皆さん、どこにファイルを保存していたかって、MOですよMO。
MOディスクというのは、フロッピーディスクと同じ3.5インチでありながら、1枚あたり650MBの容量を持つ、割と信頼性の高いメディアでした。正式名称マグネトオプティカルディスク。ただしMOディスクを扱うためには、専用の外付けドライブが必要です。その学校では、至る所にMOディスクがあり、その付近にUSB接続の外付けドライブが置いてありました。
主なディスクとして、学年や分掌などの係ごとに、それぞれの主任の先生がMOディスクを管理していました。必要な人がそれらを借りて使い、返す前にデスクトップなどにコピーしている先生もいました。
信じられませんでした。我が家では僕が大学生のときにNASを導入していたというのに、それらが全く整備されていなかったんですよ。ちなみに我が家で導入したNASはBUFFALOのTeraStationでしたが、中古ショップでHDDが抜かれた本体だけを1万円で購入し、HDDは父親と折半して4つぶっこみました。
普通さ、お互いが使うファイルは、お互いが見られるような場所に保存して、どちらからも見られるようにしておくものですよ。それが教育現場にないなんて。家族とファイルを共有するときにすら使っているというのに、なんで整備されていないの。
と、思ったんですが、IPアドレスを調べていくうちに、ADサーバーが校内にあることが分かりました。しかもそいつはWindowsサーバーで、SMBだって動いていました。なんだ、共有フォルダあるじゃん。発見しました。ただし、共有フォルダの中身はカラ。からっから。ファイル数0、当然容量も0でした。なんでじゃい。
しばらくしてから分かったんですが、職員室には学校独自で購入したパソコンが5台ほどあって、共有フォルダなどはそちらにありました。ただしインターネットにはつながっておらず、その5台が静的IPアドレスが振られていて、同じネットワークにいるだけでした。ルーターにはつながっていませんでした。
当時ね、WinMXだとかWinnyがニュースで大きく報道されていた時期でして。Winnyを通して蔓延していたウィルスが猛威を振るっていました。
あまりこの辺りを経験していない方もいらっしゃると思うので簡潔に書きますね。2000年ごろからネットではファイル共有ソフトというのが流行していました。しかもよくない方向で。映画や音楽などのファイルが、どんどん交換されていく文化が生まれてしまいました。
最初それらのツールは、ファイル交換ソフトと呼ばれていて、お互いのパソコンに保存されたファイルの中で、共有する設定になったフォルダの中身が表示されて、そこから欲しいファイルをダウンロードするという仕組みでした。
それから時代が「交換」から「共有」に変わり、どこの誰が共有しているファイルをダウンロードしているのかも暗号化して一見わからないような仕組みが導入されました。今となっては信じられませんが、本屋さんのパソコン書のコーナーでは、違法ファイルをダウンロードするための手法が書かれた本がうじゃうじゃ売られていました。
そこで、困ったことが教育業界で頻発しました。仕事上扱うファイルを持ち帰って自宅のパソコンで作業していたら、それらのファイルがファイル共有ソフトで共有されてしまったのです。
これが学校の校長先生や、警察官などの責任ある立場の方から流出したとみられるファイルが確認できてしまったので、もう当時の現場は大混乱でした。しかもこれが、ファイル交換ソフトで流通してしまったウィルスの仕業でした。
そのウィルスに感染すると、デスクトップにあるファイルや、ドキュメントに保存されているファイル、挿しっぱなしにしてあるUSBメモリのファイルなどを勝手に共有する設定にしちゃうもんだから、利用者も意図せず世界中に個人情報や機密情報を垂れ流してしまっていたのです。
更に言うと、そのパソコンは個人のパソコンではなくて、家族共有のもので、ファイル交換ソフトを利用していたのも校長先生ではなくてその子供だったという話も当時話題になりました。
この辺りから学校現場では、「仕事に使うパソコンは、インターネットに接続してはならない」という認識が強まっていくことになりました。これがかつての学校現場で共有フォルダが利用されない最大の要因となったのです。
ただし僕の感覚ではこの選択もリスクだなと感じていました。インターネットに接続していない端末では、WindowsUpdateができないからです。それどころか、セキュリティソフトのアップデートも適用できません。しかも先生方はUSBメモリやMOディスクなどを使って、どんどんファイルのやり取りを行うわけです。そうなるとコンピュータウィルスの侵入経路を完全に絶ったわけではなくなります。
我々に必要なことは、個人情報を扱うパソコンのOSやソフトウェアを常に最新の状態に保ち、USBなど使わずにデータを管理することではないか。そのためには、ファイルの保存場所はパソコン本体ではなく、県教委が配備したファイルサーバーにするべきで、一括管理を行う方が安全です。
これが当時の先生方には、一切通じませんでした。
なんでインターネットに接続されたパソコンで個人情報を扱うんだ。そんなことだから訳もわからず個人情報が流出することに巻き込まれるんだ。LANケーブルを抜く。無線LANを切る。これが最強だ。
こうして広く使われるようになったのが、MOディスクというわけです。
では、新しくその組織に加わった先生は、どうやって仕事をするのでしょう。共有フォルダが存在しない職場で。
答えは、「ファイルをください」です。いち早く誰か他の先生と仲良くなり、その人からファイルをいただく。これしかありません。これは割とハードルが低くて、大抵の先生は優しいので自分が持っているファイルを全て差し出してくれるつもりで接してくださいます。
逆に言うと、これが素直に言えない新規採用の先生は、パソコンを使った業務でいきなり詰みます。誰を頼ることもできず、でもやらなければならないことがある中で、時間ばかりが過ぎていきます。
個人的にはこれはいかがなものかと思いますけどね。ファイルのやり取りを通して先輩の先生に取り入るスキルは身につくかもしれませんが、それが必定条件になっているところに抵抗があります。別の機会で学べば良いじゃないですか。
業務上必要なものが、どこか人質に取られているような気がして、僕としては良い気がしませんでした。それに、仮に頼めばファイルをいただけるような環境であっても、いちいちお願いしないともらえないじゃないですか。
僕自身があげる側だったとしても、もういちいち承諾なしに持っていってもらいたいなって思っています。これって僕が大学時代にLinuxを通してオープンソースを体験したからなんでしょうか。それともブログに情報を公開することが自分の中で当たり前になっているからなんでしょうか。
そもそも一言言われた時に返事をするのも、もうどこか面倒だなと思ってしまうんですよね。自分が求めているのは、ファイルを便利に使えたときの感謝くらいです。テストの監督をする時だってそう。最初のお願いしますの号令は不要です。生徒からお願いされて監督する訳じゃありませんから。その代わり終わった時には感謝の言葉が欲しい。
だから僕が共有しているファイルは、一言もなしにどんどん使ってほしいと思ってそのフォルダの中に入れています。
なので、この精神で仕事ができないっていう環境そのものが、僕にとってストレスなんです。本来共有するべきファイルが共有フォルダに存在せず、というか共有フォルダそのものが存在しない、文化として誰も使っていないというのが許せませんでした。
前回の引き継ぎの件を書いていて思い出しました。僕は常勤講師3年目で、次年度に僕の代わりの情報の先生が転任されるとお聞きしてから、勤務校の共有フォルダを整備したんですよ。
共有フォルダそのものは県教委が整備していたので、そこにファイルを保存しましょうという方針を打ち出しました。その頃は情報の分掌は教務に所属していたので、教務部会を通して運営委員会を通り、職員会議も無事に通りました。
業務の中でのストレス源を、3年越しにようやく解消することができた。3月末には去ってしまう職場のことでしたが、自分がいなくなったとしても便利に使ってくれる先生方らいらっしゃるならと思って進めたプロジェクトでした。
クラウドストレージ登場で起こる悪夢再び
常勤講師として務めた学校で共有フォルダを整備して、14年経ちました。今やクラウドの時代。オンプレミス(自社で運用すること)のサーバーよりもクラウドに移行する時代だと言われています。
細かいことを言うと、その逆張りをいく、今だからこそオンプレミスみたいな考え方もありますけどね。少なくとも、愛知県はもうクラウドの時代を迎えています。
昨年度から始まったこの大改革によって、前任校はかなり便利になりました。最初は「これまでのファイルが全部クラウドにあるってどゆこと。」みたいな感じで、戸惑う声が多かったんですが、だんだんと慣れていくうちに、「こっちの方が便利じゃん」って思っていただけるようになりました。
これはもう僕の狙い通りです。これまでとやり方は変わるにしても、絶対に、劇的に便利になるという確信がありました。どうしてそう言い切れるのかと聞かれたら困りますが、企業は既に移行しているという話はよく耳にしていたので、それなら便利なんだろうなという思いはありました。
何よりね、世の中のITサービスで使いづらいものはどんどん淘汰されていくじゃないですか。新しく始まったもので定着しつつあるんだったら、現時点で淘汰されていないなら便利なんでしょ?という考え方です。
それに、数年前から話題のSharePointは、僕自身も一度環境を整備して、どれほど便利なのかを確かめてみたいという思いもあったんですよ。そう思っているうちに昨年度迎えた、教員用端末のリプレース。これはもう、乗っかるしかないなと思いました。
さて、そもそもどうしてこの話をしたのかを話しましょう。新しい学校では、ファイルがクラウドにありませんでした。かつての共有フォルダにも、すべてのファイルが保存してあるわけではありませんでした。
ではどこにあるのか。個人が所有していたり分掌のUSBメモリの中にあったりなかったり。一部はTeamsで共有されていました。
もう、だめ。どこに何があるのか全然わからない。というか座席表のファイルすら見つからない。なんで、どうして。なんでファイルの提出先がいちいち校務系なんですか。それを不便だと思った一部の先生が勝手にTeamsでファイルを送り合っている。なのにどうしてSharePointが空っぽなんですか。
ああああああああああああああああああ
整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい整理したい。
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