技術の無駄遣いが好き
生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
3月1日が卒業式。その前の月である2月には3年生を送る行事があります。
「予餞会(よせんかい)」もその1つで、多くの学校で実施されます。僕がこれまで赴任してきた学校で、実施されなかったのはコロナ禍くらいです。
自分が就職した頃の2009年頃は、それはもう動画を作るだけで重宝がられました。当時のPCのスペックはCore2DuoからCorei系に移行する時期で、職員はPentiumでした。
それからスマホが普及しタブレット端末も浸透してきた今、もうただ動画を編集するだけなら誰もができる時代になりました。写真や動画を次々に再生してBGMを入れるくらいなら、子どもたちでも全然できます。
そんな時代背景の中迎えた予餞会。他学年から依頼を受けるのではなく、自分の学年として何か出し物を披露する番が回ってきました。
なるべく労力がかからず、短い練習時間で済み、尚且つ生徒からのウケもそこそこな出し物。そんな条件を考えつつ作ったものを、紹介したいと思います。
TyranoBuilderでノベルゲーム制作
スクショを見せた方が早いですね。これを今回用意しました。ノベルゲームです。一昔前は、アドベンチャーゲーム(AVG)とも言われていました。
1990年代に登場したゲームに、「ときめきメモリアル」と呼ばれる恋愛シミュレーションゲームがあります。4まで出たあとは、Girl’sSideという女性向けゲームに生まれ変わり、今もなお新作が作られているタイトルです。
高校生活3年間を入学から卒業まで過ごして、登場キャラクターと仲良くなるこのゲーム、僕は特に1と2をやり込んだ身でして。もうゲームの中の同じ時間を何年過ごしたのかわからないほど生きてきました。
ただプレイする側のやることはというと、基本はボタン1つで会話を進めていくだけです。スマホゲームでもシナリオを進める際は、こうしたキャラクターと背景、文字が表示されるスタイルがよく使われるので、スマホ世代にも浸透している画面構成です。
キャラクターとシナリオさえあれば、ゲームが作れるわけです。
ちなみにフォントサイズはかなり大きめにしました。体育館にプロジェクターを置いたときに、一番後ろからでも文字が視認できるフォントサイズだと、これくらいが限度です。
題材が決まったところで次に考えるのが、ゲームエンジンです。画像とテキストを表示するだけなので、頑張ればパワポなどでも再現可能ですが、アニメーションをすべて人力で作るとなると骨が折れます。
なので、手軽にポチポチと作業ができるような、この手のゲームを作るアプリを探しました。そして今回発見したのがこちらです。
WindowsとMacに対応しているノベルゲーム開発アプリです。元々はゲームを動かすための言語の1つであるTyranoScriptを、マウス操作で組み上げることができるものです。
これならTyranoScriptを知らなくてもゲーム制作ができます。
ノベルゲームコレクション|無料で遊べる。ノベルゲーム投稿サイト そしてこちらのサイトでは、他の製作者が作ったゲームが一部公開されています。こういうコミュニティが出来上がってるんですね。
自分達が作ったゲームをユーザーさんにプレイしてもらい、いいねをもらい、コメントが励みになる。こうした創作の輪のプラットフォームを見るとワクワクします。
TyranoBuilderを実際に使ってみると、ゲームを作りやすくするための工夫も結構ありました。チュートリアル用途のゲームやサンプルも多く用意されているので、ゲームの作り方を学ぶ道順がしっかり作り込まれている印象です。
教育業界にいるからか、全くの初心者が始めた状態から制作技術が上達するまでが手順化されていることに感動します。
お陰様で、土日に学びながらゲームを作り上げることができました。
お次に用意しなくちゃいけないのが、素材です。背景はデフォルトのものがあり、ちょうど学校の教室と廊下の背景だけがサンプルとして登録されていたので、そのまま流用しました。
Stable Diffusionで立ち絵の制作
あとは登場人物のキャラクターです。ここで使ったのが、Stable Diffusionです。
ここではあまり語ってなかったかもしれませんが、pythonを使った、ローカルで動くAIイラストツールStable Diffusionの環境を、昨年秋頃から整えてきました。
色々と調べてみると、Google Colaboratoryというオンライン上でプログラムを動かすためのサービスを使って実行することもできました。
ただし普通にプログラムを動かすのとは違ってマシンパワーを酷使するので、Googleなどのサービスを使うと、何枚かイラストを作ることであっという間に無料枠を使い切ってしまいました。
VRAMが12GB以上あるNvidiaのグラボがあれば快適に動作するとネット記事に書いてあったので、昨年の夏にRTX3060を買い足しました。
これがStable Diffusionの画面です。pythonで動いていてWebUIもあるので、Webサーバとして起動するので、そのマシン本体のブラウザからでも動きますし、同じネットワーク内からなら他のマシンのブラウザからもアクセスできます。
このStable Diffusionでイラストを生成するにはいくつか方法がありますが、一番よく使ったのはtext2imgでした。ChatGPTのようにプロンプトを入力する欄があり、描かせたいイラストを英単語で表現します。
特徴的なのは、プロンプトを入力する欄が2箇所あって、もう片方にはネガティブな内容、つまりこういうものは描かないで欲しいという内容を入力します。
例えばイラスト生成AIは手や足の指が苦手だったり、そのまま書かせると質の低い画像を生成したりするので、そういったものを阻止する内容を入力します。
これも調べてみるとイラストと一緒にその時のプロンプトも公開してくれているサイトがあったりするので、同じプロンプトでどうやったらサンプルに似た画像を生成できるようになるのかをひたすら試行錯誤しました。
で、これが僕の写真を使って生成したイケメン画像です。img2imgという画像から画像を生成する機能を使って、プロンプトにはikemen boyと書きました。結構優秀で、ループタイも認識してくれました。
この画像をiPadの背景削除機能を使ってキャラクター単品状態のpng画像に変換してから、TyranoBuilderに読み込みました。
これを他の担任の先生方の人数分用意しました。どれほどイケメンにするかなどは、Stable Diffusionのパラメータなどを調整しながら仕上げました。
あとはシナリオ。ここはときメモ時代から培ってきたノベルゲームの経験から、短編で書いてみました。普段は結論から話すことを心がけていますが、シナリオを書く際は起承転結やフラグ回収などを心がけました。
今回の予餞会に使ったものをまとめると
TyranoBuilder
StableDiffusion
の2つです。ただStableDiffusionを満足に動かすにはある程度の性能が求められるゲーミングPCが必要です。もちろん全てをこの予餞会のために用意したわけではありませんけどね。動画編集だけじゃない。自分ならではの発表ができたと思います。
個人的に、ニコニコ動画全盛期によく使われていた「才能の無駄遣い」「技術の無駄遣い」「野生のプロ」などの表現がどことなく好きなんですよ。そこまでやる?と周囲から思われそうなほど、無駄に情熱をかける。そのぶっ飛んでる感じがたまらない。
それでも今の自分には家族がいるので、人生の時間を100%かけるほどこだわれなくなりました。時間にはどうしても限界があります。
ただ、短い時間の中で、今注ぎ込めるパフォーマンスを存分に発揮できたんじゃないかとは思っています。年齢的にももう周囲で結婚式を挙げる人もいなくなりましたが、余興を計画しなければならないときには、これも手札の一つとして持っておくのも良いなと思いました。
PCの要件を満たすのであれば、何か出し物を抱えている方の参考になれば幸いです。
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