マンパワーはどこまで許されるのか
生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
タブレット端末配備完了
先週少しだけ、仕事の話をしました。忙しすぎて、普段と同じ生活をしていては仕事が回らず、プロジェクト管理を渋々始めたというお話でしたね。
何のお仕事をしていたかというと、タブレット端末を設定して、保管庫の中に入れるという作業をしていました。
職場での僕の働きっぷりが、とても教師がやるような仕事には見えないことから、一部の先生からは「もはや業者」と呼ばれるようにもなりました。
さて今回は、先週から連日20時まで残ってどんな作業をしていたのかを、ここにまとめて、まとめながら考えた、マンパワーの使い道について話していこうと思います。
ここで話すマンパワーは、一般的な意味での”労働力”ではなく、「1人の力」や「その人だけの能力」という意味合いが強いので、そのつもりでお読みいただければ幸いです。
IPアドレスの固定
まずタブレット端末に設定した内容の話から。最初に着手したのが、配布されたタブレット端末のIPアドレスを固定する作業でした。
IPアドレスとは、ネットワークに接続している機器に必ず割り当てられる番号です。有線LANにも無線LANにも、同じように固有のIPアドレスが割り当てられます。
このIPアドレスは、ルーターからDHCPでIPアドレスを自動的に割り当てられることが一般的です。
一方企業内に導入される端末は、管理を円滑に行う必要があるため、IPアドレスを固定する場合がほとんどです。ここで言う円滑な管理を行うために、トラブルの原因を特定する時間を短くするような工夫が必要です。こうした工夫が、トラブル発生時の迅速な対応につながるわけですね。
ところが、勤務校に配備されたタブレット端末は、IPアドレスが固定されていませんでした。AP側にも、特定のMACアドレスに対して固有のIPアドレスを割り当てるような設定がされていない状態でした。
これについては個人的には仕方ないなと思っています。各学年40人8クラスだと、1つの学年に320人の生徒が在籍していることになります。それが3学年いると、960人、教員を合わせると1000台以上の端末に対して、IPアドレスを固定する設定を行う必要が出てきてしまいます。 全てのタブレット端末に対して作業を行うとなると工程も増えてしまい、人件費に響くわけです。
それに当初の予定では、DHCPで配るIPアドレスは、全校生徒の数を想定していませんでした。外向きの回線速度から考えて、同じタイミングで接続するのは、せいぜい5クラス程度だろうと思われていたのです。
2021年4月に、先行して40台だけタブレット端末が配備されました。当時僕が授業を行っていたクラスが実験台となり、利用する教室をコンピュータ室から教室に切り替えた上で、全員にタブレット端末を配ってみました。
すると、サインインを試みた生徒からヘルプの嵐。あちこちから「先生、全然入れません」「エラーが出て先に進めません」という声が続出して、教室中がパニックに陥ったのです。実際に正常にサインインできたのは、1クラスの中でほんの10人程度でした。
原因を探ってみると、学校の校舎に設置されたWIFIのAPには接続できている様子で、アンテナも立っていました。ただし、「インターネット接続なし」という表示が出ていました。
どゆことだ?と思いながらローカルの管理者アカウントでサインインしてipconfigしてみると、WIFIには接続できているものの、通信に必要なIPアドレスが取得できていませんでした。ipconfig /releaseと/renewを何度やっても、IPアドレスが取得できなかったのです。
「もしかして、DHCPのパケットが多すぎて、輻輳を起こしている?」
IPアドレスが自動で取得できないのなら、最初から固定しておけばいいじゃないか。そう思ったので、IPアドレスをスタティックに設定してみることにしました。
するとその40台のタブレットは、それまでのトラブルがまるで嘘だったかのように、安定して使えるようになったのでした。
DHCPを動かすにしても、家庭用ルーターとは規模が違うので、ルーターにもスペックが求められるのかと、この時わかったのです。もしルーター側の設定を変更できるのなら、DHCPの設定で、MACアドレスごとにIPアドレスを固定した番号を割り当てたいところでしたが、情報の教員にはそこまでの権限が与えてもらえなかったため、クライアント側で設定するしかありませんでした。
それから追加で40台配備され、1人一台にするための約600台がさらに追加で配備された時にも、同じようにIPアドレスを静的に割り当てる作業をやりました。
その結果が、このツイートとなりました。
40台に施した設定を全校生徒分のタブレットにも同じように設定した結果、240人ほどの人数が同時にタブレット端末を使える環境が実現しました。
きっとIPアドレスを固定しなかったら、地獄絵図になっていたに違いありません。総合的な学習の時間を使ってタブレットの動作確認をしてもらいましたが、その日に出席した3年生全員がタブレット端末を使って探究活動をしている様子は、未来そのもの。エヴァンゲリオンに出てきた授業風景に近いものが、令和4年の勤務校でようやく実用化できたのです。
作業の単純化が鍵
しかしこの作業、僕が全ての端末を作業すればいつかは終わる話ですが、1人の人間が1台ずつ作業するのでは、かなり時間がかかります。
それに、IPアドレスを固定する設定をしたという事実を他の教員が知らないままだと、僕が転勤した後に誰もフォローができなくなります。
これを防ぐためにというか、そもそも今回こうした大規模な設定ができたのは、魚住の実力というより、如何に他の先生方に設定内容を理解してもらうかがポイントでした。
これに関しては本当に今の勤務校での環境が恵まれていて、IPアドレスの設定や、サーバーの知識が豊富な先生が他にいらっしゃるので、その先生と二人三脚で仕事を進めることができました。商業科の先生で、ITパスポートなどのご指導もされている方なので、僕が割と専門用語を使って会話したとしても、そのまま話ができて意思疎通がとてもしやすい中で勤務できています。
その先生の助けもあって、今回愛知県から配備された全てのタブレット端末に、IPアドレスを静的に割り当てる作業を進めることができました。
そして、2人だけでなく、多くの先生方にもIPアドレスを固定する作業に参加してもらうために、なるべくその作業を単純化することにも注力しました。
IPアドレスをダイナミックに設定するコマンドや、スタティックに設定するコマンドをそれぞれ管理者権限を付与したEXEを用意して、Cドライブに配置しました。
スタティックに設定する際はポップアップが出てきて、第3オクテットと第4オクテットの値をそれぞれ入れることで、IPアドレスを設定できるような仕組みにしました。
あとは実行方法と、本体に貼ったテプラに書いてある番号を入れてくださいと、お願いするだけの状態にしました。
そして、管理職からのお願いということで、各学年からお手伝いをお願いできる方を募り、参加してくださった先生方に設定方法を伝えて作業してもらったのです。
作業工程としては少なくないものの、手伝ってくださった先生方も徐々に作業に慣れていき、割と早い段階で僕が作業から抜けて、全体の指揮に専念することができました。
マンパワーはどこまで許されるのか
タブレット端末に独自の設定を施して、県立高校のWIFI環境でも快適に使えるようになりました。これはもう、僕だけの功績ではなく、学校全体でサポートしてくださったおかげだと思っています。
しかし、月曜日にツイートした内容に対して、ご指摘があり、少しだけ考えさせられることになりました。これについて考えたことが、今回の内容の後半部分です。
「魚住にしかできないことを、どこまで勤務校でやって良いのか」
教師としての手腕を、勤務校でどこまで発揮して良いのか。これは言い換えると、自分にしかできないことを、どこまで自己判断で進めて良いかという意味になります。
日夜教材を研究し、より良い授業を目指している先生。部活動の指導に熱心で、生徒たちを上位の大会に導こうとする先生。一般企業も同じかもしれませんが、学校は、先生方の努力によって成り立っています。
ただ、特に公立の学校では、平等生が求められるのも事実です。どの地域に住んでいたとしても、等しく学校の教育を受けることができて、同じように学習する機会が与えられる。日本の公教育が目指しているところはまさしくそんな世の中です。
スーパーマンみたいな先生がいて、たまたまその教え子となった生徒だけが成績がぐんぐん上がり、それ以外の先生が担当したばっかりに成績がどんどん下がっていく。こうした光景は、あまり良くないこととされています。
ここが意見が分かれるところですが、こうした教える側の能力に差が開いているという問題を解決するための一つの考え方として、"能力が低い方に合わせる"という選択肢が存在しているんですよ。
A先生、B先生、C先生の能力が
A先生 星3
B先生 星5
C先生 星3 だったら、B先生の能力を星3に抑えることが正義だというご意見が割と多数派です。
星5の能力を教育に活かすことよりも、周囲との協調性が優先されるのが学校です。むしろこの場合、B先生が悪者扱いされることもあります。いくらB先生が日頃から熱心に指導するタイプで、生徒から慕われていようとも、星4や5くらいのことを披露してしまうと問題が出てきます。
B先生が担当する生徒だけの満足度が上がってしまい、A先生とC先生が担当する生徒の満足度が相対的に低く見られるようになるのです。A先生やC先生にとっては、自分ができる最大限の仕事をしているにもかかわらず、 B先生と比べられることで生徒から不満が出てきてしまうわけです。
A先生とC先生の授業よりも、B先生の授業の方が面白いし分かりやすいらしい。なんでA先生とC先生も同じような授業をしてくれないんだろう。B先生の授業を受けている人の方が有利じゃん。
そんな話が生徒の間で出てしまうと、A先生もC先生も、授業がやりにくくなります。B先生に負けないようにと工夫を凝らしても、B先生の二番煎じだと思われてしまいます。それに、真似してると思われることに抵抗があると余計に頑張りづらい状態に陥ってしまうのです。
こうした状況が一度出来上がってしまうと、本来評価されるべきB先生の突出した能力が評価されるどころか、出過ぎた杭として打たれる対象として見られるようになります。A先生とC先生は自分の身を守るために必死に杭を打ちます。自分たちだけでは足りないと思うなら、もっと周りを巻き込んで、B先生に好き勝手させないようにします。最終的には管理職に味方になってもらい、B先生には能力が発揮できないように、A先生とC先生から遠ざけるような校内人事を敢行することも考えられます。
ここまで話が進むと、B先生は一体何が悪かったんだろうかと考えたくもなります。他の先生方と比べて能力が高く、それを子どもたちのために発揮しようと行動した。それだけです。子どもたちのためにと努力をすることは悪でしょうか。教師として生き、子どもたちのためにと切磋琢磨していくその姿は、あるべき教師の姿そのもののように見えます。
そう考えると、A先生とB先生とC先生が同じ学年だったり、同じ教科だったりと、3人が近い距離で仕事をすることが、そもそも不運な出来事だった。そう思えてなりません。
ちなみにB先生のように、能力が突出しているタイプは、僕が過ごしてきた教師人生の中で3つのタイプの絞られる気がしてきました。
ICTに長けている(もしくは抵抗がない)先生
超優秀で頭の回転が速い先生
長時間仕事ができる体力がある先生
1は・・・、はい、僕は自分のことだと思っています。自分のことを自分で分類するのも、言いにくい話ですが、僕から見ていても、学校で働く先生方はICTに対して3つのパターンにはっきり分かれてると思います。僕のように得意とする先生と、抵抗なく受け入れられる先生と、ICTが本当に苦手で到底受け入れられない先生です。今回のテーマでこれだけ文章が書けているのも、半分以上は自分自身の経験が元となっているからです。
2に該当する先生も、ちょくちょく見かけます。僕がICTを活用するのは、逆にICTを活用しないと、普通の先生と同じように仕事ができないからだって考えているからですが、魚住×ICTでも超人的な能力を持った先生には敵いません。爪の垢を煎じて飲ませてもらいたい。頭の中を見てみたい。そんな先生と稀に遭遇することがあります。
3が意外と厄介だったりします。独身で養う家族がおらず、毎晩夜遅くまで学校に残って全ての仕事を丁寧にされるような方で、結果だけを見た管理職から高い評価を得ていることがあります。そんな先生がいらっしゃると、「全ての仕事を時間をかけて完璧にこなすことが良いことだ」という認識が生まれて、他の先生も残って仕事をする原因となります。
マンパワーの使い道
僕はICTに触れることそのものが趣味であり生きがいであり、夢中になれる対象なので、それらを勉強と思ったことがありません。苦労を要することは多々ありましたが、それを努力だと思ったことはありません。ただただ夢中になっていたら、こんな自分になっていました。
教員の世界では自分に似た存在をあまり見たことがありません。Twitter界隈で僕が他の教員アカウントの方たちと距離を置いているのもそのためです。
僕にとって、「これくらいちょいとやればできるでしょ」と思っていることの多くは、他の先生方にとっては到底辿り着くことのできない領域だということを、嫌というほど思い知りました。
僕のこうした趣向や能力は、教育の世界では生かすことができず、殺すしかないのでしょうか。
その答えのヒントとなったのが、「ICTの環境整備」でした。今回の配信の前半部分に書いたことです。今回は自分の能力を、全ての先生方がタブレット端末を気軽に使ってもらえるようにと、環境を整備することに使いました。「トラブルも多いから、あまり使いたくないよね」と思われないように、通信を安定させる工夫もしました。シャアのように拗ねてアクシズを落とすなんてことはせずに、自分の理想を叶えるためではなくて、皆さんのためにとがむしゃらに働いたつもりです。
子どもたちのためにと突出した能力を使ってしまっては、他の先生方に迷惑がかかってしまう。それならば、子どもたちだけじゃなくて、先生方にも、学校全体の環境が良くなるように、能力を使わなくてはならない。
タブレット端末の整備には、そういう想いを込めてたつもりです。流石に愛知県が全ての県立高校に配備したタブレット端末なので、「チッ、こんなタブレットなんて整備しやがって、使わせられるこっちの身にもなれっての」みたいな考え方の矛先は、僕ではなく県教委に向いてくれると思います。
ともかくこうして、勤務校でタブレット端末を使い倒す環境が整いました。同時に6クラスが使ったとしても、なんとか耐えられます。
令和の教育を受けて育っていく子どもたちのために、そんな子どもたちと全力で向き合う先生方を支えるために、魚住はこれからも働こうと思います。
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