生きることにこだわりを。魚住惇です。
今週も僕のちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
WWDCでApple Musicがハイレゾに対応したということで、巷ではハイレゾ音源を聴くための環境を整える記事が増えています。
え?魚住はハイレゾ聴かないのかって?聴いてますよ。5年前から。
流石に、外出中や移動中などのノイズだらけの環境では聴こうとは思わなかったので、家で聴く前提ですけどね。
今のハイレゾ環境はこんな感じです。
視聴マシン:Mac
DAC:FOSTEX HP-A3
ヘッドホン:Sennheiser HD580
どれもちょっと古めですが、ハイレゾ音源を再生することができています。DACは96kHzまでのハイレゾに対応しています。192kHzには対応していないので、今後どうしようか迷っているところです。
それと、ヘッドホンの周波数帯域が12Hz~38,000Hzなので、正確に表現するならば、76kHzでサンプリングした音までが鳴らせます。96kHzまでの音を鳴らせるわけではないので、厳密に言うとハイレゾに完全に対応しているわけではありません。
## 音のデジタル化の仕組み
良い機会なので、音のデジタル化について解説します。
僕の授業の2学期で学習する範囲です。
音をデジタル化する際に必要な手順は、①標本化・②量子化・③符号化です。標本化では、1秒間を何回かに分けて数値を取ります。グラフで言うと横軸です。量子化では、音の波の高さを何段階かに分けます。グラフで言うと縦軸です。最後の符号化では、標本化と量子化によって得られた数値を2進数に変換します。ここで得られた0と1を電気信号として送るわけです。
標本化では、1秒間を何回に分けるかを決めます。標本化を行う時、1秒間を何回に分けるかを表す時、標本化周波数を使います。単位はHz(ヘルツ)です。1秒間内の回数を表現するときは大抵ヘルツを使います。標本化も同じです。
上の図で考えると、1秒間を4回に分けているので、標本化周波数は4Hzです。
量子化では、波の高いところから低いところまでを、何段階に分けるかを決めます。単位はbitです。なので、2の累乗の段階で表現します。上の図では、0から7の8段階なので、3ビットで量子化したことになっています。
標本化と量子化によって、数値が読み取れました。これを電気信号で送るために2進数に変換することを符号化と呼びます。0と1に変換してしまえば、スピーカーで鳴らすなり、CDに記録するなり、好きにできます。
以上が、音をデジタル化する際の手順です。
では、標本化で1秒間を何回分けるかという話をします。
人間が聞こえる音というのは限界があります。人間は、音と呼ばれる空気の振動を、耳で感じ取ります。耳の中にある外有毛細胞が絶えず探しているのです。この細胞が音を探すとき、1秒間に2万回ほど振動し続けていることから、人間が認識できる音は20000Hzの音だと言われています。
ちなみに、何も音が鳴っていないような静かな場所では、外有毛細胞が音を探すために振動している音そのものが聞こえてくる可能性があることから、静かな様子を「シーン」と表現されるらしいですよ。
話を戻します。人間は20000Hz、キロに直すと20kHzまでの音が聞こえます。この音をデジタル化するためにはどうしたら良いのか。
上の図を再度持ってきました。これは1秒間を4つに分けたので、標本化周波数は4Hzです。ただし、この波は2Hzなんですよ。
実は、波を数えるときは、山の部分と谷の部分を合わせて1つとしてカウントします。この図では山と谷が1秒間に2セットあるので2Hzの波です。
ここがポイントなんですよ。1秒間の波の回数と、1秒間を何回に分ける回数で同じHzという単位を使います。実際には、1Hzの波を再現するためには、山と谷の両方の点を取る必要があるので、2Hz以上の標本化周波数で標本化しなければなりません。
だから、人間の聴力の限界である20kHzを録音するためには、その2倍にあたる40kHz以上で標本化する必要があったわけです。この考え方が、音楽CDの標本化周波数44.1kHzが考案される元となりました。
ハイレゾの標本化周波数は、96kHzと192kHzです。ということは、48kHzまでの音や、96kHzまでの音が聞こえるイヤホンやヘッドホンを使うことで、記録した全ての音を鳴らすことができると考えられます。
僕が使っているヘッドホンは周波数帯域が12Hz~38,000Hzなので、標本化周波数76kHzまでは鳴らせるわけです。んー、完全なハイレゾ対応とは言えませんね。それでもCDの音源以上の音を鳴らせることと、音質に関しては満足しているので、現状ではあまり買い替えは検討していません。
## 生徒の家がオーディオ屋さんだった話
ここからは、僕がHD580を買った時の、思い出話にお付き合いください。
僕が使っているSennheiser HD580は、HD650の1つ前の機種です。現在はHD650の後継にあたるHD660sが出ていますし、上位モデルではHD800sも販売されています。
それでもHD580は、そこそこ良い音で鳴ってくれるので、買い換えるには至っていません。
子どもが産まれたことで、ヘッドホンでゆったりと音楽を聴く機会も随分減りました。
このHD580、実は生徒の保護者が個人経営しているオーディオ屋さんで購入したものでした。
前任校で担任していた生徒と、オーディオメーカーの話になり、「私のうち、オーディオ屋なんです」と打ち明けてくれたことがきっかけでした。
ちなみにその生徒本人が使っていたヘッドホンはTechnicsでした。羨ましい。
ある時、僕がヘッドホンの良い出物を探していることをその生徒に伝えると、「2つ候補があるから、取りに来て欲しい」と言われ、家庭訪問が決まりました。
現地に赴いて渡されたのが、HD570とHD580でした。見た目だけで分かりました。絶対にHD580の方が高い。HD570はリケーブルにも対応していない廉価モデルでした。
しばらく使ってみると、HD570で低音が強めの曲を聴いてみると、ノイズのような音が聞こえてしまうことが分かりました。音源にもよりますが、なんかジャリジャリ聞こえたのです。これはスピーカー部分がどこか壊れてるな?と悟ったので、HD580を買うことを決めました。
2回目の家庭訪問でHD570から異音がすることを店主(生徒のお父さん)に報告すると、「え?そんなはずは」と言いながら数種類の音源を聴き比べていました。しばらくして分かったのが、お借りしたHD570の右側部分の中にゴミが入っていて、それが音の合わせて震えていたという事実でした。
「あ〜〜〜!これかぁ!こいつが振動してノイズ源になっていたのか!」
お父さんもご納得された様子でした。
話はそれだけで終わりませんでした。
「魚住先生、あなたは良い耳をお持ちですね。聴いて欲しいものがあります。どうぞこちらへ。」
案内されたのは、屋根裏を改装して作られたピュアオーディオ部屋でした。自分がしゃがみ込んだくらいの大きさのスピーカーが2つ、どん!どん!と置いてあり、目の前のソファーに座るよう促されたのです。
目の前から聞こえてきたのが、ボーカルの息遣いまで、きめ細かく聞こえてくるレコード音源の音。思わず鳥肌が立ちました。デジタル化されていない音源というのは、こんなにも素晴らしい音なのかと、思い知らされました。
「魚住先生は、僕がなかなか感じ取れなかった小さなノイズも聞き分けた。この音の良さ、如何でしょうか。ハイレゾの更に上の、こういう世界もあるんですよ。」
かれこれ1時間ほど、屋根裏で音楽を楽しませていただきました。
もう5年前のことですが、かなりの衝撃だったからか、今でもその時の様子を鮮明に覚えています。
その後、HD580のイヤーパッドも新品に変えてもらった状態で、破格で譲っていただけました。
初めて担任したクラスの保護者から買ったヘッドホンなので、なかなか買い替えられないんですよ。この出来事は2016年の話ですが、2021年現在も愛用している、お気に入りのヘッドホンです。
こんな出会い、そうそうあるもんじゃないんですが、人生って本当に誰とどう出会うか分かったもんじゃないな、だからこそ面白いなと思います。
今夜は、「出逢った頃のように」でも聴こうかな。
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