モンブランの万年筆を買いに
生きることにこだわりを。魚住惇です。
万年筆画家・作家として活動されている古山浩一さんは、こんな言葉を残しました。
お金があれば149を買いなさい、お金が無ければ貯めて149を買いなさい
この149というのは、モンブランという万年筆メーカーのマイスターシュテュックシリーズの型番の名前です。キャップをしめた時の長さが149mmであることから149という名前が付けられました。マイスターシュテュックというのが「優れもの」「傑作」という意味なので、モンブランの技術力の結晶であることは言うまでもありません。
見た目はザ・万年筆。というかこれが多分元祖にして最強。今僕はセーラー万年筆のキングプロフィットSTとペリカンのスーベレーンM805デモンストレーターをメインとして愛用しているんですが、M400を手放すことで、「これもう万年筆を整理して、メイン枠だけを残していくのなら、149をお出迎えすることができるんじゃないか?」と思うようになりました。
いやね、王者にして最強と呼ばれる万年筆を、自分が持とうとは思わなかったんですよ。最初は。でもキングプロフィットの軸の太さがすんごく書きやすくて。そんでもって全然疲れなくて。これだったら149はもっとすごいんだろう?と気になるようになったんですよ。
もうね、気になったら気になったで、ずっと調べてるの。価格とかを。しかも不運なことに、2025年1月末に価格が上がってしまいました。これまで年に2回は値上げしていたので、これはもう今のうちに買っておかないとと思うようになったのです。
もう一度、名言を貼りますね。
**お金があれば149を買いなさい、お金が無ければ貯めて149を買いなさい**
ああああああああああああああああああああああああああああああああ。欲しい。
こうなったらもうダメ。スイッチが入りました。今回はそんな、モンブランのマイスターシュテュック149を買うために、お出かけしたお話です。魚住のちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
## 100周年記念モデルをこの機会にご検討ください
モンブランという筆記具メーカーは、1906年に創業されました。最初にヒットしたのはインク漏れしない「セーフティーペン」でした。交通機関が発展していく中で、揺れてもインクが漏れないペンが欲しいというニーズに応えた結果です。
1977年にはダンヒルがモンブランを買収、1993年にダンヒルがリシュモングループに買収されたことで、モンブランもリシュモングループの傘下となりました。
リシュモングループと言えば、カルティエやIWCシャフハウゼン、ボーム&メルシエといったハイブランドを束ねる企業グループです。今ではモンブランも時計業界に参入するなど、リシュモングループに入ってからは万年筆以外の部門にも手を広げるようになりました。
1952年に発売されたマイスターシュテュック149は、2025年現在も売られている人気モデルです。所説ありますが、書き味が変化し続けてきたそうです。ボールペンが普及するにつれて筆記具に求めるものが世間の中で変化し、万年筆にも同じ感覚が求められたというニーズに応えたんじゃないかと言われています。ボールペンと万年筆を比べると、万年筆は向きや角度に注意する必要がありますから。
なので現行のモンブランはボールペンを普段使っている人が使いやすい万年筆を作るようになったのではないかと言われています。マイスターシュテュック149は発売から現行モデルに至るまで、ペン先が徐々に固くなっていった傾向があります。好みが分かれるところですけどね。中古の149の1960年代を好む愛好家もいらっしゃいます。
そして、現在でも売られている149は、今後も長く続く形だと思うんですよ。そして、相次ぐ値上げ。万年筆をこれからも使い続けるのなら、1本は持っていたい。
これまでの万年筆の買い方を大きく反省して、今回は試筆をしました。まず向かったのは、名古屋駅の高島屋7階にあるモンブランのブティックです。高島屋のもっと上の階の文房具売り場にも万年筆は売られているんですけどね。そこにはモンブランの万年筆はありませんでした。
ブティックの、ちょうど通路を挟んだところにあるガラスケースに、万年筆が飾ってありました。あぁ、これだ。これを見に来たんだ。
ガラスケースに身を寄せて万年筆を眺めていると、すぐさまスタッフがやってきました。スーツ姿の女性でした。試筆をお願いすると、試筆用として用意できるのは146という一回り細いモデルで、149は手にあてるだけでご容赦をということでした。まぁそれも仕方ない。
それからというものあれやこれやと試筆を重ねました。モンブランの万年筆って、他社とは違ってペン先などには字幅の刻印がありません。なので最初はどれがFでどれがMなのか、全く分かりませんでした。何度も試していくうちに、自然と字幅の感覚がつかめてきました。
あーでもないこーでもないと試筆に時間をかけていると、色についての話になりました。僕ね、いわゆる仏壇カラーの万年筆は既にセーラーのキングプロフィットSTを使っているので、プラチナラインにしたいと思っていたんですよ。黒ボディに金属部分が銀色の149です。中古市場にもあまり出回っていない色で、現行品でしか存在しなカラーです。
そうしたらね、そのスタッフさん、さっと100周年記念モデルを進めてきました。149が16万円。これに対して100周年記念モデルは20万円でした。ぬおん。迷う。どうしよう。しかも今、店頭に1本しかないんだとか。結局買いませんでしたけどね。あとになって、メルカリで27万円で売られているのをみて、ちょっと後悔してます。
でもまぁ、これからメインの万年筆としてガシガシつかう相棒。20万円って、ちょっと僕の中での万年筆にかける予算を大幅に超えています。できれば高くても10万円台前半には抑えたい所。それでも高いか。
ここまでずーっと思い悩んでいる客は、もう買うと思っているのか、それとも僕の接客にしびれを切らしたのか。「どうされますか?」と聞かれました。ここはちょっと、次のお店にも行きたかったので「日を改めます」と告げて、去ることにしました。
## うちはアフター含めての価格なんでね
愛知県在住で万年筆を扱っているお店に行くなら、僕はこれまで3店舗くらいを候補にしていました。名駅の高島屋、岡崎のペンズアレイタケウチ、大垣の川崎文具店です。
でももう1軒、まだ足を運んだことのない場所がありました。大須にあるペンランドカフェです。ここはヴィンテージものの万年筆を主に扱っているお店で、年代物の万年筆がまぁ良い値段で売られているんですよ。
先ほども軽く書きましたが、モンブランのマイスターシュテュック149は、1950年、1960年、1970年、1980年、現行モデルと年代ごとに書き心地に違いがあるようで、古ければ古いほど、やわらかいニブで味のある字が書けるんだとか。そして、それぞれの149がこのお店に置いてあるというのを、Xやお店のサイトで知りました。
僕が好みなのはやわらかいニブで、ふわっふわの感触を味わいながら書きたいんだと決めつけていた時期がありました。プラチナの#3776センチュリーほどのガチニブだとカリカリしていて好みではない。だから自分には硬いニブが不向きなんだ。そう思っていたからです。
でも調べてみると、現行の149は硬めでありながらも潤沢なインクフローで、その王者の座を保っているそう。ガチニブでぬらぬらなんて、そんなことがあるんだろうか。そう思うと触ってみたくて触ってみたくて、気になってしまいました。
実際に足を運んでみると、店の女性の方に「何かお探しですか?」と声をかけてもらったので、「149を見に来ました。」とだけ伝えました。そうしたら、在庫として持っている1960年代から現行品までのモデルを5本ほど用意して、一通りインクを入れてくださいました。
驚きました。普通ならつけペンのようにして書くというのに、インクタンクにインクが入っている。インク窓が黒く染まりました。書いてみると、これまたどの年代の149も書き心地が素晴らしく、しかも書き味がどれも違う。どれも良いし、どれも好みでした。
価格はどれも10万円を切るほどの価格でした。
[モンブラン 149 - PEN-LAND(ペンランド)\|新品万年筆~ヴィンテージ万年筆の販売・修理専門店です。](https://pen-land.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=2494747&csid=33)
一通り試し書きをさせてもらっていると、店長さんが出てきたので少し話しました。僕の書き方が少し捻り気味だったので、少しだけご指導をいただきました。筆圧はゼロで書けてますねと言っていただけたので少し安心しました。そして、
「うちはアフターも含めての価格なんでね。他で買ったものは料金をいただきますけど、うちで買ったものはオーバーホールから調整まで、私が生きているうちは面倒みますよ。部品代がかかる場合はいただきますけど。」
なんだろうこの絶対的な安心感は。キングダムノートでは中古の149が安く売られていますけど、この先のペンクリニックやら調整やらのことを考えると、コスパが良いんじゃないかと思えてきました。
店長さん曰く、世界で最も売れている万年筆が149だそうです。ではどこで買うのが正解なんでしょうか。公式ブティックだと16万600円。ネットの最安値は14万円ほど。メルカリだと5万円台から。キングダムノートだと6万円台から。しかしどこで買っても、何かあったときにはペンクリニックにお世話になる可能性があります。
それを考えるとね、ずっとそのお店にお世話になる方が、かなりお得だと思えました。しかも場所は大須です。パソコンショップのついでに顔を出せます。上前津から大須観音までちょっと距離がありますけどね。それでも定休日以外いつでも店が開いているというだけで、安心して万年筆を愛用できます。
そんなことを考えていたら、2人の少年が店に入ってきました。どうやら万年筆を買いに来たようです。店長さんとの会話を聞いていると、どうやら中学2年生。そうしたらなんと、ヴィンテージもののモンブランの万年筆の、しかも年代物の3万円くらいしたものを、買っているではありませんか。
びっくりしました。お金はどうやら、毎月の小遣いが7000円らしくて、それを1年間分先にもらったんだとか。いやいや、中学生で毎月7000円っていうのも正直高いし、それを3万円もする万年筆、しかも日本製ではなく舶来品にぽんと払うとか、正気じゃない。なかなかぶっ飛んでいる中学生もいたもんだなぁと感心しました。
僕が子どもの頃なんて、身の丈に合ってないほど高価なものを持っていたら怒られましたから。母親から。弟が小学生の頃に1500円の製図用シャーペンを買っただけで、そんな高価なものを子どもが買ってはだめだと、兄の僕が預かったりもしました。目の前の中学生はそんな制限に縛られることなく、高くて良いものをその年で手にしている。
しかしまぁ、買いたいものが漫画やゲーム、ましてやソシャゲのためのガチャ代ではなく、長く使う万年筆とあれば、これまた話は違ってくるのでしょうか。お菓子を買いまくるわけでもないし。個人的には良い買い物をしたように思えます。
そうしたらね、買った万年筆をペンランドカフェのテーブルと椅子が置いてあるスペースで、一眼カメラを取り出して購入後の写真を撮ってるわけですよ。しかもその後にキャップレス(パイロット製ノック式万年筆)でいろいろとメモしてるの。広げているのは万年筆が何本も刺さっている革製のペンケース。あのぐるぐるするやつ。
なんじゃこの子らは笑。一体どういうお金の使い方をしてるんじゃw
思わず話かけました。僕ももう我慢できなくて。中学生2人組は、文房具のオフ会で知り合ったそうです。今の時代を謳歌しているなぁ。同じ年の同じ趣味の友人と出会い、一緒に出掛けて。他にもタイミングを合わせて写真も撮りに行くんだとか。
万年筆の写真がうまくなかなか撮れないようで、白飛びに悩んでいたのでこちらもそれとなく話をしてみたんですが、使っていたのがオールドレンズというこれまた良い趣味で。そうだね。お金がないとそのあたりから始めるよねと、感心しちゃいました。
ちなみに2人が持っていた一眼カメラは、2人とも父親のものだとか。もう家族の写真は撮らないからと、本体を譲り受けた子どもたちだったようです。なるほど。お父さんが使っていたカメラの行先というのは、こういうことになるのか。だから型番としては少し古めだったのか。どことなく、自分の10年後を想像しました。
結局ね、僕は何も購入せずに店を出ました。一応欲しいモデルを店長さんに伝えたので、良い出物があれば連絡してもらえることになっています。
趣味性が強いお店に出掛けてみると、本当にいろんな人と話す機会があります。これは職場と家の往復では味わうことができません。自分にとってはたったの数時間の出来事でしたが、万年筆との向き合い方や、子育ての考え方まで、考え事は今でも尽きません。
いや、そもそも子どもに7000円も毎月小遣いなんて渡せませんよ。無理無理。
そんなことよりもね、ちょっと最近大きな買い物をしてしまったので、僕の今の矛先はむしろそっちですよ。キーボードです。HHKBです。既にXでは少しだけ投稿してありますが、あれから進展があったんですよ。
今取り組んでいるのは、HHKB Professional 2という、HYBRIDやBTが発売される前のモデルの現代での活用方法です。もうやりたいことがあれやこれやとあって、全部進めたいんですよね。進展が気になる方は、Xを気にしていてください。
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