生きることにこだわりを。魚住惇です。 今回もちょっとしたこだわりに、お付き合いください。
高校生が書いた心筆ノート
ノートにフリーライティングをしていると、頭の中のモヤモヤした内容が可視化されてすっきりします。
それが書き始めた頃からずっと、手書きのノートでテーマを決めずにフリーライティングしていると、胸の内を明かすような内容がどんどん出てきてしまいました。
時にポジティブな内容もありますが、ネガティブである場合がとても多くて、なんかもう個人的に「テーマなしフリーライティング」なんて言っていられないくらいの文章になることがほとんどでした。
そこで僕は、「テーマを決めずにフリーライティングを行い、心情を綴ったノート」のことを「心筆ノート」と呼ぶことにしました。ここまでが前回のおさらい。
今回は、部活で関わりのある生徒に心筆ノート活動を実践してもらったので、その時の様子を書きたいと思います。
生徒の特徴
個人が特定できない範囲で、心筆ノートにチャレンジしてもらった生徒の特徴を書きます。(今回の文章は事前に生徒に見せた上で配信しています。)
まずは性別から。女子生徒です。どちらかというと大人しそうな性格で、ギャルとは正反対です。あがり症なところがあるためか、照れた時にはかなり顔が赤くなります。
一見、何を考えているのか分からなくて、コンピュータ室の中を散歩します。複数人で談笑しているとき、みんなが笑うポイントでは笑わず、少し経ってから爆笑しています。
1つのことに集中できるタイプで、タイピングの速度もそこそこ上達してくれました。入部した頃と比べると、別人だと思うレベルです。
読書が好きで、僕が一瞬「これなんて読むんだ」と思えるような漢字を使ったりもします。
普段の様子から、頭のネジが数本抜けているんじゃないかと思われがちです。言ってしまえば天然記念物。
ここまで書いた範囲だと、まぁどこにでもいそうな物静かな生徒かもしれません。ただ僕が気になっていたのは、欠席のタイミングでした。
体調を崩して学校を休むのは、誰しもあることです。でも顧問としてどこか見過ごせないなとも思っていました。
書いたら沢山出てきた
その辺りから、部活が終わった後に話を聞くようになり、その生徒が抱えている事情が少しだけわかってきました。人間関係に悩んでいたのです。
普段の様子からてっきりド天然かなと思っていたんですが、自分自身について悩み、また人間関係についても悩んでいました。
いつもの時間に部活が終わって、その生徒が残って僕と話をして、最終下校時刻に帰る。何度かそんな日を過ごしました。これが10月ごろの話。
ただこの頃から僕自身も自分が担任しているクラスの生徒の推薦入試が近づいていた時期で、面接練習や志望理由書などの指導と重なってきました。このままではその生徒と話す時間も取れなくなるなと思いました。
最終下校時刻には生徒を帰宅させなければならない。時間には限りがある。
そこで思いついたのが、僕が続けている心筆ノートを生徒にもやらせてみようという試みでした。書くことを面倒くさがらないのなら、きっと定着するはず。ある種の賭けでした。
イマドキの高校生は、デジタルが主流です。手紙よりもメッセージ、長文だって書くよりも入力する方が効率的だと思っているはず。
なので、敢えて手書きで書いてみるということ、手で書いていたら、書いていくうちにどんどん頭から考えが出てくるという謎の効果があるということなどを伝えた上で、まずは今思っていることや考えついたことなどをそのままノートに書いてみることを勧めてみました。
ルールは簡単。新品のノートを1冊用意して、日付を書いて、あとは書いているときに思ったことを自由に書くだけ。ただし、必ず文章で書くこと。
そうしたらね、実際に書いてきてくれたんですよ。内容は超プライベートなので写真も見せられませんが、B5のノートにびっしりと書いてあるんですよ。文章が。
しかも字が細かくて、綺麗。さすが高校生です。5mmの罫線の間によくそれだけの綺麗な字で文章をびっしりと書くわ。文章量からして、かなり書きまくっているはずなのに、1つ1つの字は丁寧に書かれていて、全然自分が読めたら良い用の文字には見えませんでした。
最初の方に書かれていたのは、自分の生い立ちや、ここ最近の家族のこと。そして、学校でのことなどが、自身の感情と共に綴ってありました。読んでいくと、「そうか、だからあの時、そう発言したのか」と、僕がその生徒と接していた時に思った疑問などが解消されていき、より理解することができました。
読めば読むほど、これは普通のカウンセリングなんかじゃ分からんぞと思えてきて、もう僕自身語彙力を失いました。ずっと「そうだったのか」と思いっぱなし。
行動の変化
心筆ノート活動を始めたことで、その生徒の行動に変化が生じました。
そうそう、その生徒の心筆ノートは、内容が追加されたら僕に見せてくれます。心の中身を見せてくれている感じがして、顧問として嬉しい限りです。たまに見せてくれない時があるので、その時はちょっと寂しかったりします。
ノートの中身がね、また日を追うごとに変化していって、なかなか面白いんですよ。
最初のうちは、過去のこと。自分の生い立ちや、今の環境に至るまでのあらすじが多くを占めました。自分のことを誰かに説明するかのように書いてあったのです。
僕はただ文章で書こうとだけ伝えただけなんですが、文章で表現することで、自然と自分以外の読み手に自分のことを説明するような感じに書けていました。これは驚いた。
過去を振り返り、現在に至るまでを説明することで、自分を客観視できるような文章が書けていました。そしてそこには、書いているその瞬間に思えてきたであろう正直な気持ちも書かれていました。
ここが大事なんですよ、心筆ノートは。業務日誌とは別に、ただ胸の内をさらけ出す。喜怒哀楽を、ありのままに書いていく。恥ずかしがらずに、正直に。
書き出しながら、その思いが強くなっていく様子も文章から読み取れました。書くことで自分の思いが可視化され、更に威力が増していく。その様子も、文章だと分かりやすい。
その生徒は自身の生い立ちを書き終えた後、その日に思ったことや、夜中にふと浮かんだ気持ちなどを正直に書いてくれていました。そんなことを思ってしまう自分自身を恥じる気持ちまで。
これは僕だけの感覚かもしれませんが、内容を読んでいてそこまで驚くこともありませんでした。どこか過去の自分を見ているようで、「そうだよなぁ、この時期はこうやって思うよなぁ」と、懐かしむ方が多かったかな。
その生徒とそこまで深く関わっていないときにはわからなかった心情が読み取れると、親近感が湧いてくるものです。意外な一面を見ると、こちらも嬉しくなります。
これは本人から聞いた話ですが、書くことを続けていくうちに、思ったことや考えたことを、書かずにはいられない!というような衝動が出るようになったそうです。
今思いついた、これ、これが頭から消えないうちに、書きたい!
電車に乗っている時にそう思った彼女は、下車した駅の駐輪場でノートを開き、頭からその内容を吐き出し終えるまで、ずっとその場で書いていたそうです。(まだ寒くなる前の話)
非常に良い感じです。"書きたい!"という衝動が生まれることは、自分の感情を言語化する上で、大事なことですから。僕としては嬉しい変化です。
近頃は、書くことに時間がかかりすぎて、勉強する時間がなくなって困っているとか。まさか書くことによって勉強ができなくて困るってことに発展するなんて予想もしてませんでした。ただ、書くことを中断して勉強を始めたとしても、その状態で勉強に集中できるとは思えませんけどね。
僕はテスト勉強する時に大掃除をしたくなったら、大掃除をしないと勉強が始められないタイプですから。
万年筆も買った
魚住の影響をもろに受けてくれて、万年筆も買ってくれました。カクノですけどね。それでも高校生にとって、高い買い物です。1000円のペンですから。コンバータも買っていました。インク瓶から吸入する気満々です。
しかもね、カクノに最初からついてきたインクカートリッジ、1週間もしないうちに使い切ったらしいんですよ。素晴らしいです。どれだけ書いてるのって。
カートリッジの中のインクがなくなったのを見せてくれたので、コンバーターに交換して、ペリカンのインクを吸入させました。買ったカクノは透明なので、コンバーターの中のインクの様子もバッチリ見えます。
これ毎回だと僕のインク代がもたないので、近いうちにインクの購入も考えてもらおうと思っているところです。
これからの話
自分が今、考え込んでいることなどを文章で書く。これを習慣にすることで、人に説明するように文章が書けるようになっていきます。
本人も文章を書いたらスッキリすると言ってくれているので、心の中のモヤモヤも少しは晴れるのでしょう。僕の似たような感覚があります。
個人的には、カクノでも良いんですけど、もっと良い万年筆を1本持つと良いんじゃないかと思っています。価格的にはLAMYのSafariか、TWSBIかな。金ペンは価格的にまだ早い。
本当にね、字が綺麗なんですよ。というか、万年筆で書く字じゃないだろって思うくらい、走り書きしているはずなのに、とても綺麗で読みやすい字で書かれています。
あれだけ丁寧な字で書かれているのを見ると、自分がペリカンをこき使って書いてる字が、下手くそでごめんって思えてきます。
今回生徒に実践させたのは、自分が思っていることや考えていることを書き出させるという手法でした。
できればここからは、テーマを決めたフリーライティングなどにも挑戦してもらおうと考えています。そのテーマを見た時、考えた時に、自分がどう発想するのか。そんな記録を残すと、それこそ勉強にも活かせるんじゃないかと思うのです。
それから、普段の授業でのノートの取り方も、そろそろ変化してほしいところです。自分なりのメモを残しながら、常に書きながら授業を受ける。そんなスタイルを確立できたらいいなと思います。
部の顧問として、自分のアドバイスを受け入れてくれて成長してくれる。教師として働いていて、これほど嬉しいことはありません。ノートを見ながら僕も綺麗な字で書かなくちゃなと、逆に教えられることもありました。
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